『長さ1キロのアナコンダ』
目黒はい、次は『長さ1キロのアナコンダ』です。SFマガジンに連載して2008年に早川書房から本になっていますが、「自著を語る」では次のように語っている。
SFマガジンが青年の頃からの憧れの雑誌だったということは前にも書いた。その編集部からフリーテーマで連載をしませんかといわれ、大変うれしかった。フリーテーマといってもSF専門誌だから、どこかでSFチックな思考をからませなければならない(略)。まあそういってはなんだが、書くのが楽しい連載だった。この連載はまだ続いているが、なんとなくゆったりとしたぼくのライフワークの一端になりつつあるような気がする。
すごいよね、ライフワークって。
椎名そんなこと書いているの?
目黒覚えていない?
椎名本当に書いてる?
目黒もう忘れてしまったと(笑)。ええと、初出を見ると、1996年5月号から隔号で連載が始まって、1997年11月号まで10回連載したところで、突然お休み。次に連載が再開したのがなんと10年後の2007年4月号なんだよ。つまり途中に10年間の空白がある。これはどうしたの?
椎名覚えてないなあ。
目黒書けなくなったのかなあ。
椎名たぶんそうだろうな。
目黒で、10回分だけじゃ本にするには分量が足りないし、また10年後に連載が始まったんだろうね。いや、それはいいんだけど、そのために半分以上は結構古い話が入っている。たとえば「ずんが島漂流記」という連載を始めたとかね。単行本が出る10年前の話がこうやって、ところどころに顔を出すから、ちょっとヘンな感じがする。それだけの話なんだけどね。
椎名──。
目黒ええと、人造米って何? 昭和二十年代に人造米があったというんだけど、なにから作られたとは書いてない。椎名が小学生のころに食べたというんだよ。あのさ、思うんだけど、おれと椎名は二つしか違わないのに、おれの知らないことがこうやって時々あるんだ。
椎名あったろ?
目黒まったく記憶にない。椎名も、味の記憶は曖昧だが、とてもゴハンといえるしろものではなかった、と書いている。
椎名小麦粉かなんかで作ったのかなあ。
目黒ま、いいや。面白かったのは、もし犬や猫が会話できるようになったら、というくだり。普通なら、ペットと会話できるんだから楽しいよね。ところがこの本では、殺される犬猫が激増するだろうと書かれている。なぜなら、殺人目撃猫は命を狙われるからだ、というんだ。この発想はケッサクだった。言われてみるとその通りだよね。
椎名家政婦は見た、じゃないけど、飼い猫は見たってあるだろうしな。
目黒あとは、スリランカの海岸で野糞をするくだり。ここがとてもいいので引用しておきます。
このマレの海岸を見て、百万年の人類の風景のほぼ原型を見た気がした。山の民はおそらく草木の葉で始末し、川や海の民はその水辺に身をまかせていたのだ。経験上、どちらかというと、葉よりも水のほうがここちがいいし、すみずみまできれいになる。人類百万年の時間距離のなかで、人間が尻を紙で拭くようになったのは、本当にごくごく最近のことだ。せいぜい一世紀。百万年のうちの百でしかないのだから、これが人類の尻の拭き方の最終最後の方法であるとはどうしても思えない。むしろ紙で拭くなんて、人類はこの世紀、どうもとんでもない間違いをしているのであるのかもしれない。
海岸で野糞をしながら(笑)、こんなことを椎名は考える。哲学的だよね(笑)。
椎名紙なんて作られたのはごく最近なんだから、古代の人間は紙を使うわけない。
目黒そりゃそうだね。ええと、母親の死の予知夢を見たという話が出てくるんだけど、これは具体的にどんな夢?
椎名夜中に母親の夢を見たんだよ。おれが抱き抱えているんだ。で、しっかりしろって叫んでいる。はっと目が覚めて、母親が死んだって奥さんを起こしたんだ。
目黒それは何時ごろ?
椎名午前4時ごろかなあ。で、明るくなるのを待って弟に電話したんだ。
目黒ユーちゃんは近くに住んでたものね。
椎名あいつは数日前に母親に電話したばかりで、そのときは元気だったから大丈夫だよって信じないんだ。
目黒向こうには電話しなかったの?
椎名ユーちゃんが電話した。
目黒で?
椎名兄貴が出てきて、元気だよって。
目黒おや。
椎名でもおれは、車を出して、ユー玉を乗せて、実家に向かったの。あいつ、いやがってさ。
目黒母親は元気だと思ってるからね。
椎名そうそう。ところが途中で兄貴から電話が入って、ついさっき母親が倒れて病院に運ばれたと。
目黒あれれ。
椎名しばらくしてからまた電話が入って、母親が死んだと。
目黒それ、すごく珍しいんじゃない。夢を見てから、ええと何時間後くらい? この本では12時間後って書いてあるけど。夜中の4時に夢を見て、12時間後なら夕方の4時になっちゃうよ。
椎名午前中だったから、6時間後くらいかな。
目黒そんな前に夢を見たのか。あ、だから予知夢なのか。
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