『ONCE UPON A TIME』

目黒こんな本が出ていたなんて知らなかった。『ONCE UPON A TIME』。写真集ですね。2006年11月に本の雑誌から出ていて、なんと増刷がかかっている。B4変型という大きな本で、定価3000円なのにすごいね。おれが会社をやめたあとに出た本なんで、全然知らなかった。初めて見たよ。

椎名これはレイアウトも全部、おれがしたんだ。

目黒その話を聞く前に、「自著を語る」から、この本について椎名が語っているところをまず引いておこうか。

ひとつの写真の中にはひとつの物語がある、という思いで、時折写真を中心にしたフォトストーリーのようなものを書く。この本は完全に写真をメインにしてストーリーはあえて書かなかった。大判の豪華本である。かなりわがままに自由に作りたかったので、そういうことを聞いてくれる本の雑誌社からこの本を出した。製作費もかなりかかったので高い本になったが、そのぶん本の雑誌に損をさせてはならじと、写真展会場などでせっせとサインなどをして売り上げに貢献したつもりだ。

これまでの椎名の写真集は文章がセットになっていたから、写真集というよりも写文集だったよね。文章のない写真だけの本って、これが初めて?

椎名初めてだな。

目黒ただ、巻末に「Note on the Pictures」という写真についての説明がまとめてつけられていて、しかもそれが日本語とそ英訳つき。椎名の本にしては珍しいよね。これはどうして?

椎名サンフランシスコの書店でおれの本を売ってくれるって話があったんだよ。だから英訳をつけた。その話は実らなかったけれどね。

目黒あのね、『どうせ今夜も波の上』の文庫解説で、沢野がこの『ONCE UPON A TIME』を絶賛している。

椎名へーっ、本当かよ。

目黒「椎名誠はこれまで十五冊の写真を中心にした本を出してきたが、どれもこれも私の記憶に残る」という出だしから始まって、「最近では、著者自ら渾身の写真をセレクトした『ONCE UPON A TIME』が素晴らしい」と続き、「装丁、造本も念入りに作られ、充実した写真集に仕上がっている。この「むかしむかし、あるところに」を開くと、椎名誠が放った写真がレンズを通し突き抜け、また反射して印画紙にしっかりと焼き付けられる」ともう絶賛だね。でね、椎名の写真がどういうものであるのかという話を書いたあとに一枚の写真をとりあげる。

椎名どの写真?

目黒18ページの写真。

椎名ええと、これか。

目黒巻末のノートによると、「1989年、西表島の舟浮の集落。分校の修学旅行から帰ってきたおにいちゃんを迎えに来た少女。背中に人形の赤ちゃんをおぶっていた。この村に通じる道路はなく島の中心地までは舟でいく。ニコンF3」とある。この写真について沢野はこう書いている。

この一枚から、いろいろなことを語りかけてくる。兄が家を空けて、一人でいた妹の淋しさ。その間、いつも遊び相手になってくれた人形。きっと少女は兄が大好きで、船がいつくるのかと胸をドキドキさせて待っているのだろう。写真の奥に島がかさなり、海と埠頭、人形を背にした少女。その背後に立つカメラを手にした椎名誠。これこそ私の好きな天然の旅情というものだ。

まあ、いかにも沢野の好きそうな写真だけどね。でもなかなかいい文章だよ。

椎名素晴らしいな(笑)。

目黒読んでないの?

椎名忘れてた。

目黒この本を作ったときの苦労話は?

椎名100枚くらいの写真をコピーしてさ、それを全部並べて、どういう順番に並べたらいいか、毎日考えてたよ。たとえば16ページは白だろ。この前で一つの物語が終わって、この先は違う物語が始まるってことだよな。白ページに意味があるんだ。お前はわからないだろうけど(笑)。

目黒わからないなあ。

椎名楽しかったのを覚えている。

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