『全日本食えば食える図鑑』

目黒ええと、次は『全日本食えば食える図鑑』です。小説新潮の2004年新年号から1年間連載したもので、2005年7月に新潮社、2008年5月に新潮文庫と。連載時のタイトルは「全日本奇食珍食大紀行」というもので、「日本の各地にあるあまり普通の人は食べない、しかし現地の人は郷土食として食べている一般的でない食べ物を、挑戦的に食っていくという体当たりルポ」と「自著を語る」で椎名が言っている。

椎名昔小学館で出した『全日本食えばわかる図鑑』をもじってるね。

目黒その「自著を語る」から引用すると、

もっともつらかったのは、エラコというゴカイの一種で、東北地方のある海岸地帯ではこれを実際に食べていると聞き挑戦したのだが、ゴカイはぼくにとっては絶叫するほど気味の悪い生き物だから、それを食うなどということは精神的な自殺行為に近い。しかしなりゆき上、引き下がることができず、ちゃんと食べたが、くやしいので同行している編集者にも義務として同じように食わせた。食えば食えるのだった。

と、なんかイヤだなあという箇所もあるけれど、こういう箇所は思ったよりも少なかった。もっと気持ち悪いのかなあと思ったけど、心配したほどじゃない(笑)。

椎名小説新潮に連載したのか。

目黒うん。ええと、まずエラブー、これは海へびのことですが、毒性はコブラの10倍という話が出てくる。

椎名それは間違いだね。

目黒椎名が10倍って書いているよ。

椎名二百五十倍じゃなかったかな。

目黒ずいぶん違うぜ。ま、いいか。その海へびの毒牙は口の奥のほうにあって、性格もおとなしいから、よほどあくどくいじめたり、ふざけて指を口の前に持っていってつついたりしないかぎり好戦的に噛みつくことはないと。

椎名おれが海へびを持って立っている写真が載っているだろ?

目黒そうそう。これ、怖くないの?

椎名海へびは浮力で浮いているから、陸に上がると背筋力がないから、だらっとしたままで首をあげられない。

目黒背筋力って言うのかどうかわからないけど、だから尻尾を持ってぶらぶらさせても平気なんだ。なるほどね。そのエラブーのふりかけがあって、子供が風邪を引いたときにご飯にかけて食べさせるとたちどころに直るってのは本当?

椎名本当だよ。

目黒エラブーの濃縮ジュースもあって、こちらは大人が風邪を引いたときに1本呑むと直るけど、こちらは日持ちしないと。これは売ってるの?

椎名ふりかけは石垣島の市場で売ってるけど、ジュースは家庭で作るんじゃないかなあ。おれはときどき送ってもらうけど。

目黒元気になる?

椎名なるぜ。

目黒ふりかけにしたり、ジュースにしたり、あとはどうやって食べるの?

椎名エラブーはあまり食べないな。おいしくない。

目黒ベトナムに行ったときに、唐揚げにしたコブラをフランスパンにはさむコブラサンドがおいしかった、と以前のエッセイで書いていたよね。そんなものをフランスパンにはさまなくてもいいと思うんだけど(笑)。

椎名あれはおいしかった。

目黒エラブーも唐揚げに?

椎名しないなあ。

目黒ふーん。あと、面白かったのは富山の飲み屋で、店のおやじがゲンゲ科のナンダについて、こう言うんだ。

食ってみますか。慣れないとまずいよ。刺し身も駄目だし焼いても駄目。煮ても駄目だね。フライには向いていない。唐揚げも癖が強くて駄目だね。干物も好き嫌いがあるなあ。

ここまで言われてよく食べる気になったなあと感心したよ。で、食べた感想は? おいしかった?

椎名まずかった(笑)。まわりにぬるぬるしたものがついていて、それをちゅーっと吸うのがおいしいって言うんだよ。食べる人は。でも、そのぬるぬるしたやつがイヤなんだよなあ。

目黒ゴカイは食べても、ナンダはだめだったと(笑)。

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