『世界おしかけ武者修行 海浜棒球始末記その弐』

目黒ええと、次は『世界おしかけ武者修行』です。オール讀物に断続的に連載し、2005年7月に文藝春秋から刊行され、2008年6月に文春文庫と。「海浜棒球始末記その弍」という副題が付いているように、浮き球野球の顛末記だね。しかも海外版。浮き球野球を海外にひろめようという壮大な野心を抱いて海を渡るんだね。

椎名おれはね、アジア・リーグをつくろうと思っていたんだよ。

目黒壮大な意図はいいんだけど、この本を読むと、第一章はスコットランドで練習をするだけの話なんだ(笑)。で、第2章はモンゴルに日本の少年たちを連れていって現地のモンゴル少年らと試合をする。椎名たちはそのコーディネーターだよね。これはなかなかいい話なんだけど、どう考えても「武者修行」ではない(笑)。

椎名そうだなあ。

目黒第3章からようやく本番が始まって、台湾、韓国、インドシナ、パプアニューギニアと転戦する。この3章以降は面白いよ。でも本として読むと、最初の1章2章が浮いているからおさまりが悪い。

椎名なるほどな。

目黒台湾以降の話の前に、第2章のモンゴル編に触れておくと、椎名が訪ねたころの2002年の街の光景が面白い。当時の携帯電話がすごいんだ。普通の黒電話を奥さんが横で持ち、そこからお父さんが受話器を持って話している。たしかに外に持っていけるんだから携帯なんだろうけど、その恰好がすごいよね。今は違うんでしょ?

椎名いまは最新式の携帯をみんなが使ってるよ。遊牧民がポケットに入れてるからね。

目黒過渡期の光景というのは面白いよね。写真に撮っておかないと後世の人は信じてくれないかもしれない。

椎名日本だって初期の携帯電話は肩からでかいバッテリーを下げてたものな。

目黒あんなのはいまの若者が信じないかも。あと面白かったのは、台湾で写真を撮っちゃだめと言う人を、ヒロシが撮ろうとするの(笑)。カメラマン魂だよね。

椎名ばかだよなあ(笑)。

目黒面白いのは、野球を知らないあちらの人にまず野球のルールを教えて、やっと覚えた現地の人と対戦して、勝った勝ったと言って帰ってくるの。これ、ずるいって言えばずるいよね(笑)。しかも椎名は正直で、身体能力が高いから慣れてくるとばかすか打たれちゃうんだけど、9回まで戦えば逆転されていただろうが、浮き球のルールは7回までなので助かったと書いている(笑)。

椎名野球を知らない人にルールを教えるのは大変なんだよ。

目黒そうだろうね。あと面白いのは、ラオスでは国立競技場を借りることが出来たと。すげえなあと思ったら、ただの原っぱ(笑)。

椎名カンボジアでも国立競技場で試合をしたよ。

目黒こっちの国立競技場はスタンドもあって立派だね。しかし何といってもすごいのはパプアニューギニア。横浜ベイスターズの元監督の権藤博さんがあまりの身体能力の高さに驚いてスカウトのための試験をやろうと思ったらしいんだけど、この国の男たちの、やる気があるのかどうかわからない特有の無気力ぶりが不安となって断念したというくだり。プロがスカウトを考えたというんだからすごいよね。これがうまくいってたら、ドミニカ共和国の選手がメジャーリーグにたくさん行っているように、パプアニューギニアの選手が日本のプロ野球でも見れたかもしれない。

椎名ホントに彼らはすごいよ。ホームランラインは四十二メートルなんだけど、その倍は飛ばしていたからね。

目黒当たれば、ね。

椎名そうそう。

目黒ホームランラインが四十二メートルってこの本で初めて知った。

椎名ルールは最初から決まっているよ。

目黒でもこれまで椎名は書いていなかったと思う。おれ、初めて知ったもの。

椎名そうだったかなあ。

目黒とにかくこの本が面白いのは、アジアを制覇しようと意気込みは壮大なのに、結果としてはたじたじになって帰ってくるというギャップだね。それが面白い。このあとは海外に行ってないの? 浮き玉野球は?

椎名行ってないな。

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