『ただのナマズと思うなよ』

目黒それでは『ただのナマズと思うなよ』。週刊文春連載の赤マント・シリーズの第16弾です。2004年9月に文藝春秋、2007年6月に文春文庫と。あのさ、この文庫版の解説で、伊豆の島に行って20人分のカレーを作ったとき、いつもより人数が多いのでどうも味がきまらない。すると椎名がタバスコを1本鍋にぶちこんだ。さっきと違って味がある──と沢野が書いているんだけど、これ、沢野の創作でしょ?

椎名実話だよ。それからいつもおれたちのカレーは、タバスコ1本ぶちこんでるぜ。

目黒えっ、本当なの。困ったなあ。

椎名どうしたんだ?

目黒それだと話がつながらない。

椎名どういう意味?

目黒この本の冒頭にね、知り合いからサンマがどさっと送られてきたので新宿のなじみの居酒屋でさばいてもらうことになったという話が出てくる。古い友人の目黒考二君に事務所に届いたサンマをタクシーで持ってきてもらうことになったけど、それがなかなか来ない。「目黒のサンマはまだか?」と誰かが言いだして、どっと笑ったところに目黒が到着。遅れたくせに憮然としている。そこで椎名が、「遅れたのはいいけど、いまみんなで同時に気がついたんだが、これがまことの目黒のサンマじゃないか。それで笑っていたんだよ。だからお前も一緒に笑ってもいいじゃないか」と言うと、目黒が次のように言うわけ。「別にそんなにおかしくもないよ。考えてみてくれ。ずっと昔から秋になってサンマが出てくるとおれはみんなにそう言われていたんだぜ。そういう人生だったんだぜ」。というエピソードなんだけど、これは椎名の創作だろ? おれはそんなこと言われたことないし。だから解説で沢野が創作しているように、椎名も話を作っているから、やっぱりこの二人は友人なのだと話を繋げようとしたんだよ。それなのに、沢野の解説が実話と言われると、話が繋がらない。

椎名なに言ってるのお前? これ、実話じゃないか。覚えてないのか?

目黒嘘!

椎名おれははっきり覚えているから。

目黒ええええっ! 実話?

椎名お前も年だから、忘れているんだよ。

目黒ショックだなあ。覚えてないや。

椎名自信を持って言えるよ。これは実話であると。

目黒そこまで強く言われると自信がなくなるなあ。ま、いいや。ええと、あとは酒田でワンタンメンを食べる話。

椎名ワンタンメンのうまい店が酒田にあったんだよ。

目黒でもさ、椎名ってワンタンメンを昔から食べてたの?

椎名食べてたよ。それがどうした?

目黒椎名のイメージに合わないよね、ワンタンメンは。

椎名なんだよそのイメージは。

目黒ま、いいか。

椎名どうした目黒。今日はおかしいぞ。

目黒次にいきます。覆面パトカーにつかまる話が出てくるんだけど、十五年間も無事故無違反のゴールドカードだったのにと嘆くエピソードね。そのゴールドカードだと何か特典はあるの?

椎名免許更新のときに近くの警察署で出来る。

目黒ゴールドカードじゃないと?

椎名遠くまで行ってさ、しかも講習を受けなければいけない。

目黒なるほどね。おれ、いまだに免許を持ってないからな。

椎名なんで免許取らなかったの?

目黒配本部隊を指揮していたころに一度行く予定をたてたの。秋田のほうで二週間か三週間の合宿で免許が取れるって話があったから、当時本の雑誌でアルバイトしていた慶応のY君と二人で一緒に行こうって約束したんだ。その間東京を留守にするから、仕事の段取りもきちんとしてさ。免許の学校って昼間だけだろ授業は。夜は民宿で泊まりだから、大学生たちを麻雀にさそいこんでかもろうぜって、Y君と楽しい計画をたてていたんだよ。そしたら、Y君が急性肝炎になっちゃってさ、一人じゃ行ってもつまんないなとやめちゃった。

椎名その機会を逃がしたらダメ?

目黒あれが最初で最後のチャンスだったなあ。

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