『誠の話』
目黒次は『誠の話』です。マルコポーロに連載した和田誠さんとの対談集ですね。不思議なのは、雑誌に連載していたのが1994年7月号から1995年2月号までなのに、角川書店から本になったのが2004年。どうして10年も寝かせていたの? 単行本化にあたって語りおろしの対談を1本収録しているけど、分量的にはそれがなくても十分一冊分ある。
椎名忘れてたんだ(笑)。
目黒対談集なんで評価は別にします。なんといっても面白いのは映画の項だよね。おれ、椎名はやっばりヘンだと思う。
椎名何だよ。
目黒テアトル東京で「ベンハー」を上映したときの話が出てくるんだけど、スクリーンが横に長くて、しかも婉曲しているから、三つのプロジェクターを使って映写していたと。一つのプロジェクターに係が正と助手の二人ついていて、そのプロジェクターが三台だから全部で六人。さらに三つのスクリーンの間の二つの筋を補正する係も別にいるから総勢八人がかりで映写したと、嬉々として語るわけだよ。
椎名だって興味あるだろみんな。
目黒そのあとで、ディメンション150方式になって、それがどういうものかもここでは克明に語っているんですが、そのディメンション150方式の第1回目が新宿プラザで、チャールズ・ブロンソンの「ウエスタン」という映画であったと。椎名はその映画を観に行ったんじゃなくて映写方式を観にいって、すげえすげえと感心するんだ。さすがの和田さんも、「沢山の人があそこであの映画を観たと思うけど、そんな見方してたのは椎名さんくらいでしょう」とこの対談集で言っている。「僕は完全に映写オタク」であると椎名自身も言っているね。これ、やっぱり異常だよ。
椎名そうかなあ。
目黒映画を観るより撮るより、それを撮影したり映写する機械に興味があるってのは、異常でしょ。そういう人って他にいる?
椎名少ないね。
目黒映画体験を書いた『まわれ映写機』によると、その興味は幼いころからあったというんだから、栴檀は二葉より芳し、だよね。人間って変わらないんだ。ええと、あとは細かなことばかりなんですが、定期代の話でね、椎名が3カ月で3万7280円、和田さんが半年で3万240円。すると椎名が、あっ、7040円勝ったというくだりがある。
椎名なんで定期を持ってるの?
目黒自宅から仕事場まで定期を買ってるよって話が出てくるのさ。
椎名買ってたんだオレ定期。
目黒それくらい覚えていてよ(笑)。
椎名で、それがどうかしたのか。
目黒なんでも勝ち負けを決めたがる椎名らしい発言なんだけど、この場合の基準がわからない。定期代金としてたくさん金を使っているほうが勝ちならば、そもそも椎名は3カ月定期なんだから和田さんと同じ半年定期を勝ったら金額はこの倍近くになる。だから圧倒的に勝ちで、7040円程度の勝ちじゃない。
椎名お前の言ってることがわからない。
目黒面倒くさいから、ま、いいや(笑)。じゃあ、モンゴルに行ったら水虫が直ったという椎名の発言があるんだけど、そもそも水虫になったことなんてあるの?
椎名おれが?
目黒直ったと発言しているんだから、その前は水虫だったということだろう?
椎名本当にそう言ってるの?
目黒違うの?
椎名記憶にないなあ。
目黒だいたいいつも裸足にサンダルのやつ(笑)が、水虫になるってのがおかしいよね。
椎名なにかもっと他の質問はないのかよ。
目黒あまりないんだよなあこの本。あるとするなら、タイトルだね。このタイトルはうまいよね。
椎名花田さんがつけたんだろうな。
目黒どうせなら、誠という名前の人をあと二人集めて四人座談会をすれば面白かったね。発言者の名前を全部「誠」にしてさ、どの「誠」が発言したんでしょうかって読者に考えさせるの。
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