『ぱいかじ南海作戦』
目黒『ぱいかじ南海作戦』は、小説新潮に2001年4月号から断続的に7回連載され、2004年4月に新潮社、2006年12月に新潮文庫と。『走る男』が意外に面白かったという話を以前しましたが、この『ぱいかじ南海作戦』も意外に面白い。『走る男』は椎名誠の意外に器用な面が出ていて興味深かったんですが、こちらもまた器用です。『走る男』とほぼ同じころに書いた作品なんで、もしかするとこのころの椎名は、こういう作品に向いていたのかもしれない。
椎名向いてないよ。
目黒まあまあ。これもね、ストーリーがきちんと動いているんだ。会社が倒産して妻にも去られ、失意のまま南の島にやってきた男を主人公にした小説ですが、まるでプロットをきちんと作ってから書いたような感じがある(笑)。
椎名そんなの作ったことねえよ。
目黒この小説については、「自著を語る」で次のように語っているので、まず本人の弁を引きましょう。
その折、西表島のハエミダというところで、いわゆるホームレスの人たちが南の浜のアダンの木の森にたくさん住んでいるのと出会った。南島のホームレスの生活はぼくがしょっちゅうやっているキャンプ旅の延長のようで、なかなか魅力的に思えた。彼らとも親しくなり、いろんな話を聞き、そのサバイバル技術などもあちこちで見せてもらった。その時の強い印象を元に、自分がホームレスとなってそういう生活をしていったらどうなるか、というのがこの小説を書くモチベーションだった。経験したものを小説に書いていくというのはかなり楽なもので、この連載はあまり苦しまずに地のままで書いていけばよかった。その意味では成功した部類だと思う。
これは楽だったんだ。
椎名そうだな。だからおれのなかでは『走る男』と『ぱいかじ南海作戦』は違うんだ。『ぱいかじ南海作戦』は楽だったけど、『走る男』は苦しかったから。
目黒なるほど、面白いねえ。たしかに『走る男』は超常小説で、『ぱいかじ南海作戦』はサバイバル小説だから、ジャンルは異なるんだけど、読者として読むと似た印象がある。ようするに、ストーリー性が濃いんだこの二作は。こういう読み物を椎名はこの時期にしか書いていないから、何かあったのかなと思っちゃう。この路線をもっと書けばよかったのに、と思うんだオレは。
椎名ふーん。
目黒構成的に言うと、最初は先人に騙されて、次は先輩になるというのがいいし、東京の編集プロダクションに主人公が時々電話するのもいいよね。もう一つ、別の目を用意することで物語に膨らみが生まれている。ただし、元妻はいらないね。最後に登場するけど、元妻がいなくてもCMの撮影はありうるわけだから余分だよ。
椎名これは映画になったんだよ。映画では元妻がいたほうがよかったな。
目黒その映画では、ラストはどうなった?
椎名ラストって?
目黒ヨットを盗んでまた旅に出るだろ? いや、出発するわけじゃないんだ。そう考えながら寝たっていう描写だ。また旅が始まるのだ、とかなんとかいう感じ。とっても常套的だよね。
椎名それはわかるけど、ほかにどんな方法があった? こういうのは終わり方が難しいだろ。
目黒映画ではどういうふうにしてた?
椎名原作に忠実な映画だったよ。たしか、筏で海に出るんじゃなかったかな。
目黒旅に出るパターンか。
椎名こうするしかないだろ?
目黒そうかなあ。あるような気がするなあ。
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