『まわれ映写機』その1

目黒それでは、『まわれ映写機』です。星々峡の2000年7月号から2001年8月号までと、2002年1月号から10月号まで連載したものです。どうして途中で数カ月の休みを挟んだのかその理由はわからないんだけど、椎名が作った映画会社ホネフィルムの解散が2000年の秋なので、映画の話をここいらでまとめて書いておこうと、そういうことだったんじゃないと思います。実際の解散は秋でも、ずいぶん前にそれは決まっていたと思うので、7月号から映画に関する回顧録を書いたと。そういうことですね。2003年11月に幻冬舎から単行本になって、2007年2月に幻冬舎文庫に入っています。連載を途中で一度休んだ理由は覚えていないよね?

椎名覚えていません(笑)。

目黒これね、実は面白かった。というのは全体が二部構成で、前半は小さい頃から映画が好きだったというさまざまな思い出話を書いているんだけど、おれが知らない話が多かったんで。

椎名なんだ、そういうことか。

目黒雑誌の付録についてきた実物幻灯機を組み立てて遊ぶくだりが、いかにも椎名らしいんだよ。映画を見ることよりも、それを映す機械に興味を持つんだね。

椎名実物幻灯機って、お前、知ってるか?(以下、その説明が延々と続く)。聞いてるかお前?

目黒ようするに、テーブルの上のリンゴを映したりするわけね。だから実物幻灯機だと。その仕組みはなんだかよくわからないけど(笑)。

椎名だから。(とまた説明を始めよう椎名を抑えて)

目黒このスタートカメラって何?

椎名当時流行っただろ?(以下、その説明が続く)。

目黒ま、いいや。よくわからないから(笑)。で、本物の8ミリ映写機に触れたのが高校生のときで、友人の持っていたものを使ったのが最初。で、大人になっても興味は続いて、保育園の助成金運動の一貫として8ミリ映画を作る。*1

椎名それ、おれが書いているの?

目黒そうですよ。

椎名撮ったんだよ8ミリ映画を。初めて依頼されたんだぜ。

目黒保育園で働いていた奥さんに依頼されたと、この本で書いている。

椎名アマチュアからプロへの転身だな。

目黒それをプロと言えるかどうかは別だけどね。それとね、椎名が小平に住んでいるとき8ミリ映画フェスティバルをやったという話が出てくる。3人だけの上映。これ、正月休みに毎年観たよおれ。

椎名そうか?

目黒正月だから来いっていうから行くと、呑む前に映画上映会があって、それを見なくちゃいけないの(笑)。最初の年は3本だけど、翌年はその3人が新作を作るから6本になって最後の年は10本くらい観たような気がする。せめて新作だけにしてくれればいいのに、前に観たものも上映するから退屈で、あれは困ったなあ(笑)。

椎名なんかお前、ぶつぶつ言ってたなあ。

目黒でも、この本を読んで思い出したんだけど、井上陽水の歌をバックにした「開かない踏み切り」って、椎名の弟のユーちゃんの作品だと思うけど、四十五年に観たアマチュア映画なのに覚えていた。

椎名そうそう、ユー玉が撮ったやつだ。

目黒3人の上映会って、あと一人は誰?

椎名沢野じゃないか。

目黒それは覚えてないなあ。沢野が被写体になって山に登るやつがあったけど、あれかなあ。山登りというよりハイキングみたいなやつ。しかも家族旅行。

椎名それは「沢野ひとしの遠くに行きたい」ってやつで、撮ったのはオレだな。*2

目黒ただの家族旅行の記録だよね(笑)。

椎名あれだって苦労したんだぞ。

目黒あと鮮烈に覚えているのは、雨の日に色とりどりの傘が開いて歩いていくところをずっと俯瞰で撮ったやつ。綺麗だったんでまだ覚えている。あれが「六月の詩」じゃないかなあ。この本では違うことになっているけど。

椎名銀座にあったストアーズ社のビルの屋上から下を撮ったんだよ。あれには8ミリ版と16ミリ版がある。

目黒ちょっと待って。じゃあ、この本でアマチュア時代に撮った映画は「神島でいかにして飯を食ったか」「うみどりのうたう島」「六月の詩」と3本のタイトルが上げられているんだけど、これ以外にもあったということ?

椎名そうだな。その3本は全部8ミリだけど、これ以外に16ミリが2本ある。それが「六月の詩」の撮りなおしカラーバージョンと、「源作じいさんの島」モノクロ版。

目黒それは「うみどりのうたう島」の撮りなおしバージョン?

椎名同じく粟島を舞台にしているけど、これはまったく別の作品だよ。

*1「われらペリカンっ子」
*2「みたけまいり」

(この項続く)

旅する文学館 ホームへ