『絵本たんけん隊』

目黒これはすごいです。『絵本たんけん隊』。2002年12月にクレヨウハウスから本になって、2013年に角川文庫に入ったものですが、タイトルからわかるように絵本のブックガイド。ただし、単なるブックガイドではない。いやあ、びっくりしました。元版のときに読んでなかったのかなあ。その前に、この本の成り立ちを書いておくと、最初は1993年から1996年まで、表参道の東京ユニオン教会でやった講演録がずっと椎名のところで眠っていた。

椎名おれが手を入れてからクレヨンハウスで本にする約束だったけど、面倒なのでずっと放っておいた(笑)。

目黒1996年に終わっているのに、2000年まで何もしていない(笑)。

椎名おれがまとめるのはもともと無理だ(笑)。

目黒で、おれが何か原稿ないって聞いたときに、こういうのがあるけどって椎名がこの速記録を見せてくれた。講演そのものは1回2時間で、毎回テーマに沿って話をするんだけど、前半はそのテーマにいくらか関係のある日常よもやま話。後半は本来の主旨である絵本の話。もともとクレヨンハウスの仕事なんで、その全部をもらうわけにはいかないけど、絵本と関係のない前半だけなら切り離されるんじゃないかというわけで、前半を構成し直してまとめたのが『ここだけの話』(本の雑誌社・2000年8月)。で、後半の絵本編をまとめたのが本書と。

椎名一つの講演をこんなふうに真っ二つに割って、それぞれ独立した本になるなんて思ってもいなかった。

目黒だからおれはそのときに、全体の速記録を読んでいるはずなんだけど、どうにかして一冊分がここから出来ないかって目で読んでたんだろうね、残したほうの原稿がこんなに素晴らしいとは思ってもいなかった。

椎名ほお。

目黒まず、絵本のガイドブックだからこれは当然なんだけど、実にたくさんの絵本を紹介している。で、ずいぶん昔に読んだものもその時点で読み直している。そうでなければこんなに詳しい紹介はできないから、それは間違いない。で、克明なレジメをつくって講演に臨んでいる。あの忙しいときによくもここまで出来たよなという感心が一つ。

椎名レジメ作っていかないと2時間もたないよ。

目黒普通の講演ならレジメなんて作ったことがないでしょ、あなたは。でもこれはそういうわけにはいかない。でもね、それだけなら、真面目に講演やりましたね、ということで特に珍しいわけではない。いちばんは、これが椎名でなければ出来ない紹介だということだよ。

椎名どういうこと?

目黒たとえば「どこにでもすめるよ」という回では、こういうテーマの立て方もいいよね。『アリジゴクのひみつ』という本から、『パパーニンの北極漂流日記』、『砂のすきまの生きものたち』という本をどんどん紹介していって、地球上のあらゆる生物の分類を書いた『五つの王国』というほぼ専門書まであげていく。さらには、キャンベルのSF『月は地獄だ!』まで紹介してから絵本の紹介に移っていく。つまり、おそろしく幅が広い。絵本だけを語る書ではないということ。これがいちばん大きい。

椎名なるほど。

目黒すごいのは、「小さなだいじなはこのなか」という回は、トイレとかうんちの話なんだけど、ここでは椎名が馬に乗って川原を一列縦隊で走ったときの体験譚が語られる。椎名の目の前を走っていた馬がいきなり尻尾をわっと上げ、肛門がどんどん大きくなっていくのが見えたと思ったら、ぼーんと発射されて、後ろにいた椎名が糞まみれになったという体験譚。

椎名あれはひどかったなあ。

目黒つまりね、生物の専門書からSF、探検記、さらには旅の体験譚まで、椎名でなければ紹介できない幅の広さがここにはある。すごいよこれ。

椎名もっと褒めてね(笑)。

目黒だから、子供とかお母さんにだけ読ませるのはもったいない。絵本の好きな人はもちろんだけど、本そのものが好きな人なら性別年齢を問わず、読んでほしい。あらゆる人にすすめたい好著だと思う。あのさ、椎名はいままでたくさんの本を書いてきたけど、これがベスト1かもしれない。

椎名そこまで言うかあ(笑)。

目黒他のすべての本が消えても、これだけは残るよ。作家椎名誠のすべての要素がここにあるといっても過言ではない。最後に一つだけ。この本の終わりのほうに、「海のおっちゃんになったぼく」というのが延々引用されているんだけど、これは何?

椎名大阪の新聞社だったかなあ、コンテストがあって、おれが選考委員だったんだけど、そこに応募してきた作品で、受賞したんだよ。

目黒それ、何も書いてないよ。ぜひとも知ってほしいストーリーがありますっていうだけで、あとはこれが延々引用されているんだ。

椎名それはその後、本になっている。

目黒クレヨンハウスから絵本として出たんだ。これはうまいよなあ。

旅する文学館 ホームへ