『ぶっかけめしの午後』
目黒次は『ぶっかけめしの午後』。赤マント・シリーズの第14弾です。2002年10月に文春から本になって、2005年12月に文春文庫と。ええと、これは幾つか聞きたいことがあるんだけど、まず福島で鉄塔に昇る話。これは実話?
椎名うん。
目黒旅しているときに孤立している鉄塔を見て、一人で旅していたので誰も止めてくれないから(笑)、ついふらふらと昇ってしまう。10年くらい前というから、2002年の10年前で、ええと1992年のころか。これ、本当?
椎名本当だよ。
目黒だってもう大人だぜ。
椎名鉄塔といっても孤立したやつだから、もう電線もなにもない。
目黒それでもさ、昇ったら怖くなって降りられなくなるんだぜ。
椎名降りられなくなったわけじゃない。怖かったと書いただけだよ。
目黒なんで、そんなところに昇ったの?
椎名鉄塔って普通に昇れないんだよ。危ないから。でもこれはもう使われていないからね。そういうのを見ると、つい昇りたくなるだろ。
目黒いや、おれは思わないけど(笑)。ということは、椎名はもともと鉄塔に昇りたいと思ってたの?
椎名みんな、そう思わないか?
目黒みんなは知らないけど、おれは昇りたいと思ったことがない。おれは高所恐怖症だから無理。
椎名下の2〜3メートルさえクリアすれば、あとは階段が付いてるから簡単に登れるんだ。そのときはいちばん上のほうまで昇ったわけじゃないけど、山の上にある鉄塔だからかなり高い。怖かったなあ。昇るよりも降りるときのほうが怖い。そのときの体験をもとにして短編を書いたことがある。
目黒『鉄塔のひと その他の短編』か。あの作品集は1994年に出ているから、福島で鉄塔に昇ったのが1992年ごろとすると、計算も合うね。これ以降は鉄塔に昇ったことがない?
椎名ないよ(笑)。
目黒もう昇っちゃダメだよ(笑)。
椎名はい(笑)。
目黒あとは、このころなんだね、尿酸値が高いと診断されるの。それはプリン体が原因になっていて、しばらく気にしていたよね、プリン体を。酒場で会うといつもプリン体の話をしていた(笑)。そのプリン体が大量に含まれているのは、アンコウの肝、レバー、ウニ、イクラ、カツオ、パセリ、干しシイタケ、納豆、ラーメン、カツオ節だと。これは椎名の好きなものばかりだよね。もう直ったの?
椎名高値安定だな。
目黒どういうこと?
椎名つまり直ってはいないんだけど、気にしないことにした。お前、知ってるか、最近健康の基準となる数値が大幅に変わったこと。
目黒いま話題になってるやつね。
椎名あのなかに尿酸値も入っている。
目黒じゃあ椎名の数値を気にしなくてすむようになったの?
椎名そうはなってない(笑)。
目黒なんだよそれ。
椎名さっきの全部ダメだったらトクちゃんとこに行って、何も食べるものがないんだよおれ。それを全部我慢していたらストレスがたまって、そのほうが健康に悪い。だから気にしないことにした。
目黒ふーん。
椎名成長したんですよおれは。
目黒なんだかよくわからないけど。そうだ、ちょうどいい機会だから聞いておきたいんだけど、生ビールって普通のビールと何が違うの?
椎名それはいい質問だね。あれはまったく同じ。
目黒えっ、普通のビールと生ビールは同じなの?
椎名生ビールを別に作っているわけではないよ。
目黒ちょっと待ってね、ビンビールとか缶ビールとかあるよね。あの中身と、トクちゃんの店で出てくる生ビールに違いはないの?
椎名同じだよ。
目黒嘘! 何か違いがあるでしょ?
椎名流通経路が違う。
目黒どういうこと?
椎名普通のビールは工場でつくってどんどん箱詰めされて問屋さんにいき、そこから店に運ばれていく。一方の生ビールは、それと同じものを樽につめて、生ビールの問屋さんにいき、そこから店に運ばれていく。違いはそのスピード。
目黒スピード?
椎名工場から店につくまでの流通が早い。
目黒早いとどうなるの?
椎名ビールがうまい。
目黒やっぱり味は違うんだ。同じものを時間をかけて運ぶものと、手早く運ぶもので味が変わってくると。
椎名ビールは工場から動かさなければ動かさないほど、うまいから。だから工場で飲んでごらん、出来立てを。うまいぜ。
目黒じゃああれだね。工場から仕入れた生ビールを3カ月間倉庫に仕舞っていて、いけねえ忘れてたと出してきたものは、もう生ビール本来のうまさがないんだ。へー、知らなかった。
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