『風まかせ写真館』
目黒次は『風まかせ写真館』。2002年4月に朝日新聞社から本になって、2005年8月に朝日文庫と。アサヒカメラに連載している「シーナの写真日記」をまとめたもので、『旅の紙芝居』に続く一冊だね。まずね、こう書いている。
「やっぱり相当に犬好きなのだろう。あっちこっちで撮ってきた写真をぼんやり眺めているとどうも犬の写真が多い」
つまり意識して犬の写真を撮っているわけではないんだけど、気がつくと犬の写真が多いんだね。
椎名そうだなあ。
目黒たとえばね、この写真。アメリカの田舎を歩いていたときに撮った写真だけど、路上のテーブルで太ったおやじが新聞を読んでいる。その手が横にいる犬の尻あたりをごにょごにょと掻いているんだよ。だから犬が振り返って、なにやってんだよおと言いたげな顔をしている。可愛いよな。
椎名ああ、これな。
目黒あと、モンゴルの犬も可愛い。少年にじゃれているところ。あのさ、犬の写真集を作ってよ。たくさんあるでしょ枚数的には。
椎名なんかイヤらしくないか。
目黒そんなことないよ。これだけ犬好きを公言しているんだから、売れ筋写真集を作ったなんて誤解する人はいないよ。ぜひ見たいなあ。あのね、ちょっと話が飛ぶんだけどいい?
椎名いいよ。
目黒きのう、犬の映画をテレビでやってたんだよ。近所の人が電話で教えてくれてね。おたくにいた犬にそっくりの犬が出ているって。
椎名ほお。
目黒うちは雑種を飼ってたんだけど、数年前に十七歳で亡くなった。真っ黒な犬でね、その映画の主役の犬も真っ黒なの。で、真っ黒の犬ってみんなそうなのかもしれないけど、年を取ってくると口の回りだけ白くなるんだよ。そういう細部もそっくりなんだ。妻夫木聡が若かったから、ずいぶん前の映画かもしれない。つい2時間見ちゃったよ。
椎名いい話だな。
目黒この本の中に、結婚してすぐのころ、雷の激しい夜に子犬が柵を越えてどこかに行ってしまそれ以来帰らなかったとあるんだけど、そんなこと、あったの?
椎名うん。犬は雷が嫌いなんだよな。ガクも逃亡して1週間ほど帰らなかったことがある。
目黒うちの犬は臆病だったから、雷が鳴るといつも隅のほうで小さくなってたな。
椎名興奮するとどこかへ行っちゃう犬もいるんだよ。
目黒和歌山県の太地に行く「クジラの町」とか、ケラマ諸島のザマミに行く「オボレ犬とその仲間たち」を読んでいてふと思ったんだけど、椎名って文章がうまいと初めて気がついた(笑)。
椎名(笑)。
目黒この二つのエッセイでは、特別なことが何も起きない。現地の子供たちとの交流が淡々と描かれるだけ。でもね、それがすごくいいんだ。その束の間の交流が胸に残っていくから、文章と写真を見ているだけで飽きない。
椎名心で書いているんだねえ(笑)。
目黒まあまあ。あのサムライ青年がここにも登場しているんだけど、この人、その後はどうなったのかな。すごく心配だな。
椎名チョンマゲで着流しをきて、全国を放浪している青年な。
目黒知りたいよね、その後の彼の人生。
椎名正しいサムライになっているかもしれない(笑)。
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