『ハリセンボンの逆襲』

目黒それでは『ハリセンボンの逆襲』です。赤マント・シリーズの第13弾。2002年1月に文春から本になって、2005年1月に文春文庫と。ええと、椎名はホームページの「自著を語る」で、この『ハリセンボンの逆襲』についてこう書いている。

「このシリーズは週刊誌一年分の連載で一冊になる、と以前書いたが、単行本にするときはそれらを全部載せるわけではなく、改めて読んでみるととても本に残すような気分になれないいいかげんな話の回もあり、それらはばさばさ捨てていくことになる」

そのまま単行本にしているのかと思ってた。13作目にして初めて知ったよ。

椎名時事ネタの回は落としているな。

目黒そういえば、1年間の連載をまとめるなら、刊行時期がだいたいいつも同じころになるはずなのに、年によって微妙にズレているから、おかしいなと思ってたんだ。

椎名落とした分だけで一冊分あるよ。

目黒あとね、浮き玉野球の話で、最終回同点満塁の場面で椎名に打順がまわってきたとき、「むかしからよくわかっているのだが、ぼくにはこういう目立つプレッシャーに非常に弱い」とあるんだよ。これ、意外だった。プレッシャーなんてあるの?

椎名そりゃ、あるよ。

目黒でもさ、面白いじゃん。最終回同点満塁の場面だよ。それにプロの野球選手じゃないんだから、たとえ三振したって翌年の年棒が減るわけじゃない(笑)。

椎名そりゃそうだけど。

目黒子供のころの運動会でも緊張したっていうこと?

椎名そういうのは大丈夫。

目黒じゃあ、何よ?

椎名おれ、みんなに注目されたくないんだよ。木村晋介と反対だな。

目黒ああ、木村さんはみんなに注目されると普段以上の力を発揮しそうだね(笑)。

椎名おれはもっと繊細だから(笑)。

目黒そうかなあ。ま、いいや。この本の中には意外なことが幾つもあるんだけど、これも意外なこと。手打ちそばを椎名が批判的に見ていること。てっきり手打ちそばが好きなんだと思ってた。こう書いている。

「それはもうただもうゴワゴワ固くてソバ粉くさくて単一味であまりうまくはなかった。以前からこういう本格的なつなぎなしの固い手打ちそばはあまり好きではないのだ。もっと細くてやわらかいぐにゃぐにゃしたいいかげんなそばのほうが好きなのだ」

それでね、駅そばを食いたいと書いている。これ、意外だった。

椎名いまでも好きだよ。富士そばはいまでも食べている。

目黒ええっ、富士そばかよ。それは大胆だなあ。あ、そうだ。うどんは手打ちがいいでしょ。

椎名うどんは足踏みだけどな、たしかにうどんはおいしい。

目黒面白いのは、残り物系発作的丼の名作として、①肉じゃが丼②マーボドーフ丼③焼いた塩ジャケと大根おろしをショーユでからめたのを載せた丼④キンピラゴボウ丼⑤茄子とピーマンの甘味噌炒め丼、といかにも椎名好みの丼を紹介するくだりがある。これは椎名の好みの順序?

椎名そうだな。

目黒いまでもこのベスト5は変わらない?

椎名いまはいちばんは、すき焼き残り丼だな。

目黒それがトップに躍り出たと。そうだ、いまでもキャンプに行くだろ。そういうときの残り丼はないの? キャンプのときは残らないか?

椎名前の日に作ったカレーを、冷や飯の上にかけて食べる。

目黒それ、ただのカレーライスだろ(笑)。

椎名そうか。

目黒この本の中でいちばん強烈なのが、「ポカラ」という雑誌が主宰していた第1回ポカラ賞の応募作「幻の女人国」。これはすごいよねえ。雲南省のロコ湖を探訪する話で、寝袋の中で糞がたまっていく。その記録。いや、びっくりした。

椎名すごいだろ。ところが受賞できずに佳作だったのかな。こないだもまた読みたくなって、その雑誌を探したら出てこないんだ。

目黒佳作として雑誌に載ったんだ。

椎名そう、どこに行っちゃったのかなあ。

目黒それとね、沢野が文庫版の解説で、高校一年のときに椎名が自主的な学級新聞を作ったことがあるって書いている。

椎名なんだそれ?

目黒何号も続いたっていうんだけど、そんなこと、初めて知った。

椎名それは沢野の創作だな。

目黒えっ、嘘なの!

椎名あいつ、このシリーズの解説をずっと一人で書いているから、もうネタがないんだ。

目黒とはいっても、だからといって嘘を書いちゃいかんでしょ。あなたも何も言わないの?

椎名だって、いま初めて知ったもの。

目黒困ったねえ。

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