『南洋犬座』

目黒次は『南洋犬座』です。これは「なんよういぬざ」ではなく、「なんよういぬずわり」と読みます。週刊金曜日の表紙写真をまとめたもので、1999年6月に集英社から本になって、2002年8月に集英社文庫と。「100絵100話」という副題がついているのは、その表紙写真についてのちょっとしたエピソードを毎回書くようになっていて、それがここにもそっくり収録されているから。ですから、写真集というよりも写文集ですね。

椎名これは集英社の担当者が作った本で、おれはまったくタッチしていない。

目黒あのね、元版の84ページに、モンゴル人なのかなあ、両手をひろげて筋肉をぶるぶるふるわせるおとうさんの写真がある。それが文庫版の98〜99ページに載ってるけど、お父さんの顔がちょうど本のノドのところにきちゃって、すごく見にくいの。

椎名そういうのを考えないで作ったんだな。

目黒その文庫本の解説を堀瑞穂という人が書いているんだけど、この人は写真家?

椎名「アサヒカメラ」の編集者だ。

目黒その解説の中に「日の丸写真」という言葉が出てきて、興味深かった。人物を画面の中央に入れて撮る写真のことらしいんだけど、これはプロの世界では邪道と教え、最近ではアマチュアも避けているというんだけど、「椎名さんはあまりこだわらない。むしろ撮るべき人は真ん中におきたいというのが持論である。徹底して人物真ん中主義といっていいかもしれない」と書いてある。

椎名カメラは真ん中がいちばん解像度が高いんだよ。そこに人物を入れて撮るのはだから当然で、なにも気取ってずらすことはない。

目黒これ、全部、表紙に使った写真なの?

椎名そうだよ。

目黒よそで見たことのある写真が何枚かあるんだ。例の「ちんぽこ少年」の写真がそうだし、港にいる子供たちを後ろから撮ったやつとか、これ、好きなんだよなあ。左端の2人が片足をあげているやつ。

椎名どれ?

目黒文庫版でいうと92ページ。

椎名お前、以前もそう言ってたな。

目黒そうか、あとがきに書いてたね。「その中には別の誌面などで、すでに発表した写真なども含まれています」と椎名が書いていた。あとは特に、言うことはないなあ。あ、そうか。このタイトルだ。

椎名なに?

目黒南の島に住んでいる犬は独特の座り方をすると。どんな座り方かというと、後ろ足をそのまま後ろに伸ばし、胸から腹までべったり一面を地面につっつける座り方。ようするに、あまりの暑さに対処してお腹を地面にくっつけることで、体を冷やしているのではないかと、南の島をよく知るダイバーは言ったというんだね。あとがきを読むと、その「南の島をよく知るダイバー」は中村征夫さんのこととわかるんだけど、「自分もあっちこっちの南の島でこういう座り方をする犬を見ておかしいなあと前からおもっていたのだ」と中村さんの言葉を紹介している。で、椎名もそうだと。

椎名何か問題があるのか?

目黒本当にそうなのかな。

椎名犬には毛穴がないんだよ。しかも毛が生えているから南洋の犬は暑いんだ。だからお腹を地面につけて、ラジエーター代わりにしているってことじゃないかな。

目黒南の島以外で、そういう座り方をしている犬を見たことはない?

椎名ないよ。

目黒ふーん。ま、いいや。

椎名なんだよ疑ってるのかよ。

目黒ところで週刊金曜日の表紙写真って、椎名はまだやってるの?

椎名いまはもうやってない。でも、この『南洋犬座』に続いて、『南洋犬座2』を編むだけの写真の量はまだあるんだ。

目黒もう1冊分の写真はあると。

椎名出してくれないかなあ。

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