『砂の海 楼蘭・タクラマカン砂漠探検記』

目黒それでは『砂の海』です。「楼蘭・タクラマカン砂漠探検記」という副題がついています。1996年3月に新潮社から出て、2000年12月に新潮文庫に入って、2008年12月に集英社文庫と。ただし、最後の集英社文庫版は、新潮文庫の『砂の海 楼蘭・タクラマカン砂漠探検記』に、『風の国へ・駱駝狩り』(1994年新潮文庫)を合わせ(ただし「駱駝狩り」は省く)て書名を『砂の海 風の国へ』としている。なんだかまぎらわしいね。

椎名ようするに、新潮文庫の『砂の海』と、『風の国へ・駱駝狩り』が絶版になったので、両者をくっつけて集英社文庫に入れたと。そのときに「駱駝狩り」だけ外したと。

目黒そういうことか。それでは『砂の海 楼蘭・タクラマカン砂漠探検記』にいきましょう。これは、ヘディンが「さまよえる湖」と名付けたロプノールと、2000年前の幻の王国楼蘭に向けて砂漠を進む日々の記録とエッセイだね。朝日新聞と中国の共同探検隊にテレビ朝日のクルーが一緒にいくかたちで、椎名はそのテレビ朝日のドキュメントのリポーターとして行ったと。

椎名大所帯だよな。

目黒全体としては百五十人と。新潮文庫版の解説をこのときに同行したテレビ朝日のプロデューサーの田川さんが書いているんですが、それによると「楼蘭での撮影は許可しない」と通告されたと、でも許可が下りるまで待っていられないと出発するんだよ。それを心配するからと椎名には言わなかったらしいんだけど、知らなかった?

椎名知らなかったなあ。

目黒最初にその解説を読んでから本文を読むと、だからスリリングなんだ。許可は無事に下りるんだろうかって。

椎名すごい旅だったなあ。

目黒細かなことが幾つもあるんですが、静止衛星を使って日本と通信できる専用車を持っていったと。これは1億円近いらしいんだけど、これで椎名も原稿を送ったの?

椎名うん。そういう契約だから。報道ステーションにも出た。砂漠の旅は快適ですかあと久米宏が言うから、コノヤローと思ったね。

目黒ドキャメントのリポーターとして行ったんだよね、そんなこともしたの?

椎名付録だな。

目黒あと面白かった、と言っちゃいけないんだけど、中国製の缶詰の話。開けると錫が溶けだしていてカナモノの匂いがするってやつ。

椎名大きい缶詰なんだ。魚と豆と肉の3種類。まずいんだこれが(笑)。しかも錫が溶けだしている。でな、錫はまわりから溶けるだろ。だから真ん中なら安全だから、真ん中から喰うんだ(笑)。

目黒他にもいろいろ食べ物については大変だったらしいんだけど、パンが石のように固いとかね。だから面白いのは、成田をたつときにカレーを喰っておけばよかったとか、出発前日に新宿で飲んだとき、帰り際に石の家のやきそばを喰っていこうかなと思ったのに喰わずに帰ったことを後悔してあのとき喰っておけばよかった、と思ったりするのがおかしい(笑)。

椎名あとはトイレな。

目黒オアシスの宿に泊まったらトイレが1つしかないから混雑したって話ね。

椎名待ってるやつは腹を前のやつにくっつけて、横入りさせないようにしている。ぴたっとくっついて、ぎゅうぎゅう押しているんだ(笑)。

目黒なにもそんなことしなくても。

椎名横から割り込むのが平気だから、防御のためにそうせざるを得ない。で、クソする番になったときのコツは、目の前に立っているやつの顔を見ないことな。

目黒えっ、どういうこと?

椎名中国の便所はかこいがないだろ。つまり、クソするときは、みんなが見ている前でする。しかもケツは外を向いているから、行列つくって並んでいるやつの顔を見ながらクソすることになる。するとな、次のやつはもうクソがしたくて仕方がないんだよ。辛そうな顔をしている。そんなやつの顔を見ながらクソが出来るか?(笑)。しかもこっちは座っているから、見上げる立場だろ?

目黒立場が弱い(笑)。

椎名いやだったなあ(笑)。

目黒見られながらクソをするっての、恥ずかしくない?

椎名クソする姿はすぐに慣れる。最後まで慣れないのは、ケツを拭く姿を見られることだな。これがいちばん恥ずかしい(笑)。

目黒でも、そこでしなければならないんだ。

椎名おれはだから、夜になって外に出たんだ。どこかそこいらの暗闇でやっちゃおうって。ところがオアシスは人口密度が濃いから、どこに行っても人がいるんだよ(笑)。しかも犬がすぐにやってきて吠えるし(笑)。

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