『あるく魚とわらう風』

目黒『あるく魚とわらう風』は、青春と読書に連載して、1997年12月に集英社から本になって、2001年2月に集英社文庫と。これは日記ですね。1995年5月29日から翌年10月30日までの約1年半の日記。これまでも日記は何冊かあるんだけど、あとから読むと日記は面白いよ。ただね、この本はかなりヘン。

椎名何がヘンなんだ?

目黒本文と関係のない写真がどんどん挿入されている。文庫本の65ページに砂浜で寝ころぶ犬の写真があって、「やつはこうしてときおり体をねじって眠る。しかしあと15分で汐がみちてきておこされるのだ」というキャッチが付いているんだけど、この近辺の文章に犬はいっさい出てこないんだよ。

椎名本当か?

目黒77ページの写真もそうだよ。女性二人が写っていて、「みゆきちゃんはイリオモテ島へ行って島の女となった」とキャッチが付いている。みゆきちゃんが右の女性なのか、左の女性なのか、わからないんだけど、この近辺の本文に、そのみゆきちゃんは登場しないんだ。

椎名へー。

目黒137ページの写真もそうだね。中年男と若い女性が写っている写真で、「寿司屋の二階で打ち上げ。なんだかいい感じの二人をパチリ。むかしの上司と部下だという。にぎやかな晩だった」とキャッチが付いている。でも、その寿司屋の二階の打ち上げそのものが本文にはないんだよ。かなりヘンだよね、この本。

椎名それは気がつかなかったな。編集者がいけないんじゃないかなあ(笑)。

目黒もちろん本文と関係のある写真もたくさんあるってことは付け加えておきます。ええと、どうでもいい話なんだけど、39度の日に熱いラーメンを食べるくだりがあるんだけど、椎名は冷し中華は食べないの?

椎名オレ、冷し中華は信用してないんだよ。

目黒信用してないってどういうこと?

椎名知っている店ならいいけど、知らない店で冷し中華を食べるって信用できないんだよ。

目黒まずいかもしれないってこと?

椎名冷し中華は難しいからな。

目黒熱いラーメンならいいの?

椎名知らない店で喰うなら断然、熱いラーメンだな。

目黒へーっ、そうなんだ。

椎名おれは麺のプロだからね(笑)。

目黒わかりました。それと、SFマガジンで隔月連載がスタートするって話が出てくるんだけど、これは本になってるの?

椎名なってるよ。『長さ1キロのアナコンダ』がそうだよ。

目黒ということは小説じゃないんだ。エッセイか。

椎名うん。ゆくゆくはここにも出てくるはず。

目黒ええと、2008年5月に出た本だから、まだだいぶ先だな。

椎名いまは何年なの?

目黒この『あるく魚とわらう風』は1997年の本だから。

椎名『長さ1キロのアナコンダ』はまだ11年も先だ。

目黒そうだ。小笠原で会った彫物師の話があるよね。椎名の本をたくさん読んでいて、沢野のイラストと、ホネ・フィルムのマークを自分の太股に彫っている人。神楽坂の写真展にまで来るから熱心なファンだよね。後日その人から手紙がくると、そこに「いつかぼくや沢野やその周辺の人たちみんなにいろんな入れ墨をしたいというお願いが書かれていた」っていうんだけど、オレには紹介しないでね(笑)。

椎名おれ、腕に蛇の彫物いれるのもいいかなと思って聞いたんだよ。痛いんでしょって。そしたら、そんなに痛くないですよって。

目黒おれ、痛いのだめなんだよ。

椎名痛くないって言ってるぜ(笑)。

目黒いや、おれはいいから。

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