『みるなの木』
目黒ええと、『みるなの木』です。1996年12月に早川書房から本になって、2004年4月にハヤカワ文庫と。SF短編集ですね。早川書房から本になったんで、てっきりSFマガジンに書いていた作品をまとめたものと思っていたら違うんだね。
椎名違うのか?
目黒海燕が5本、小説新潮3本、別冊文春2本、小説TRIPPER2本、青春と読書1本、SFマガジン1本で、合計14本。SFマガジンに載った作品は1本だけだよ。
椎名へーっ。
目黒すべて1993年から1996年にかけて書いた作品だね。これはすごくいい。傑作短編集だ。
椎名海燕には何を書いたんだ?
目黒あれですよ。「北政府もの」。
椎名そうかあ。
目黒正確に言うと、北政府という名称は出てこない。だけど、明らかに『武装島田倉庫』の世界を背景にしている。単行本のあとがきでも、椎名はこう書いている。
「みるなの木」「赤腹のむし」「海月狩り」「餛飩商売」は1990年に出した『武装島田倉庫』で書いたシチュエーションの延長である。ぼくのここに書く世界は、どこかの世界であった何かとてつもないスタイルの最終戦争のあとの「戦後」が舞台になっている。
ね、やっぱり「北政府もの」なんだ。これがすごくいいよ。椎名のSF短編集の中でもベスト3に入るんじゃないか。
椎名本当かよ。
目黒というのはね、これまでのSF作品集って、たとえばのちに『雨がやんだら』と改題する、ええと、何だっけ? そうそう、『シークがきた』は、はっきり言って玉石混淆だよね。いい短編もあるんだけど、何なのこれ、って作品もあったりする。だから一冊の本として見た場合、必ずしも珠玉の作品集とは言いがたい。ところがこれは、すべてがいいよ。
椎名北政府もの以外にはどんな作品が入っているんだ?
目黒これがいいんだよ。奇妙な入社試験を描いた「突進」とか。
椎名別冊文春に書いたやつだ。
目黒不思議な海と泉を描く「漂着者」とか。
椎名それ、SFマガジンに書いたやつじゃないか?
目黒意外に覚えているんだね。あとは、なにが起きてるのか全貌が見えない「対岸の繁栄」とか、「北政府もの」以外の短編もなかなかいいんだよ。
椎名ほお。
目黒不満を一つだけ言うならばね。
椎名やっぱり不満はあるんだ(笑)。
目黒この書名はどうかなあ。収録作品の中ではいちばん古いということと、北政府ものの代表ということなんだろうけど、独特のイメージを与えすぎちゃうと思う。
椎名お前なら、どういう書名にする?
目黒「南天爆裂サーカス団」。海燕に書いた1篇なのに、これだけ北政府ものではないから、書名にするとヘンだということだったのかもしれないけど、椎名のSF短編集の書名にはぴったりだよ。この書名からイメージがひろがるぜ。
椎名ふうん。
目黒以前も言ったけれど、いちばんいいのは、北政府ものをまとめて1冊にして、タイトルを『続・武装島田倉庫』とすることなんだけど(笑)。
椎名それはなあ。
目黒いや、あちこちの作品集に入っている北政府ものをまとめて読みたいんだよ。いいと思うけどなあ。
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