『自走式漂流記』

目黒では次は『自走式漂流記』です。これは小説新潮・臨時増刊「椎名誠の増刊号」(平成四年七月)の文庫化です。これは、椎名誠のさまざまな仕事を紹介する本で、いちばん最後は映画の項。そのいちばん最初が1974年に制作した20分カラーの「神島でいかにしてめしを喰ったか」という8ミリ映画の紹介で、その冒頭に載ってる写真はオレだよオレ(笑)。

椎名いきなり何を言いたいんだ(笑)。

目黒いや、オレも若かったなあと。本の雑誌を創刊する2年前だね。あのさ、いま気がついたんだけど、この「神島でいかにしてめしを喰ったか」って、カラーだよ、すごいね。同じ年に制作した「われらペリカンっ子」は40分でモノクロなのに。

椎名当時は8ミリのカラーは高かったからな、40分もまわすとなるとモノクロじゃないと出来なかった。

目黒ふーん。これは20分と短いからカラーにしたのか。ところで、この文庫は売れたのかね?

椎名増刊号は16万部売れたと聞いたけど。

目黒資料としてはいい本だよ。とても参考になる。でも特に、言いたいこともないなあ(笑)。ところで、月刊幕張ジャーナルの創刊号の表紙が載ってるけど、これ、誰が持ってたの?

椎名おれ。

目黒椎名って意外に物持ちがいいね。

椎名どこかにまとめて放り込んでいたやつが出てきただけだよ。

目黒月刊おれの足5号もまるまる載ってるし。

椎名それは沢野が持ってたやつだな。まわりが焼け焦げてるだろ。火事場から出てきたやつだから。

目黒なるほどそうか。東ケト会の合宿パンフは、毎回笑い転げて読んだ記憶があるけど、これもよく残ってたよねえ。

椎名それもオレじゃなくて、誰かの手元に残ってたやつじゃないかなあ。

目黒この本に出てくる年譜のいいかげんさについては、このインタビューでも幾度かやってきているので、いまさらとりあげるまでもない。たとえば、この文庫の225ページに、小さな船に乗った東ケト会の面々の写真が載っていて、いちばん手前の帽子をかぶっている青年が若き日のオレだけど、そこに粟島遠征時の写真とキャプションが付けられている。でも本当に粟島遠征時の写真なのかどうか、オレは疑問があるんだよ。でもね、いいと思うんだ。

椎名いいって?

目黒たとえ事実と違っても、誰に迷惑をかけているわけじゃないからね。もっとあとに『本の雑誌血風録』という小説を椎名が書いているんだけど、その文庫解説をオレが書いていて、そこで事実との違い、大きな誤りを幾つか指摘している。ひどいんだよその『本の雑誌血風録』も(笑)。間違いが多すぎるの。でも、そのときにも書いたんだけど、それでもいいとオレは思ってる。第三者に迷惑をかけたのならまずいけど、誰にも迷惑をかけてないなら事実と違っててもいいだろうと。

椎名それ、大きな字で書いててくれる(笑)。

目黒つまり、それが椎名の記憶なら、それを正すのはおかしいとオレは思うのさ。それが椎名の見た歴史かもしれないんだから。そのくらいかなあ。あ、そうだ。「椎名誠、全自作を語る」というのが巻末に着いているんだけど、こういうふうに自作にコメントをつけたのってこのときが初めて?

椎名編集者のインタビューに答えただけだけど、これが初めてだな。

目黒作者がどう考えているのかがよくわかって、こういうのはいいな。

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