『鍋釜天幕団フライパン戦記』
目黒ええと、『鍋釜天幕団フライパン戦記』です。1996年7月に本の雑誌社から出た写文集です。ようするに、椎名のサラリーマン時代から作家としてデビューするまでの仲間たちの旅写真を集めて、そしてその写真を見ながら椎名と沢野が対談したもの。本としては「椎名誠編」となっているけど、これは椎名と沢野の共著だよね。ここで訂正しておきます。
椎名沢野と対談しているのか。
目黒椎名と沢野が船で八丈島だったかなあ、何かの仕事でとにかく長い時間船に乗るんで、写真とテープを渡したの。二人で対談してきてと。帰ってきてからそのテープをおれがまとめた。
椎名そういえば、船の中で対談したなあ。
目黒それは覚えているんだけど、それ以外の記憶がない。これ、やっぱり、経営が苦しくてでっちあげた本かなあ。
椎名そうだろ。
目黒でもね、いま見るとすごくいい本だぜ。鈴木成一の装丁もいいし、何よりもタイトルがいい。『鍋釜天幕団』っていうんだ。もうこれだけで、雰囲気がわかるよね。これ、椎名がつけたの?
椎名そうだろうなあ。
目黒これ、いいタイトルだよねえ。それに写真がまたいいんだ。一般読者がどう思われるかわからないんだけど、個人的には感慨深い写真ばかりなんだよ。たとえば、帯にも使われていて、この本の最初のページにも載っているのは三宅島の写真で、おれが初めて東ケト会に参加した回なんだけど、例によって沢野が意味なくカメラに向かって足をぱかっとひろげているし、他のみんなは手をあげている。「あやしい探検隊青春編」という副題通りに青春だよねえ。この三宅島遠征は一九七〇年だから、なんと四三年前。椎名と沢野が二六歳、長老も三〇歳そこそこでしょ。みんな、ただの若僧だよね。それが嬉しそうにみんなで笑っている。
椎名本当だなあ。
目黒笑っちゃうのが、琵琶湖の写真。椎名が日本酒の瓶にゴムチューブを差し込んでいて、その瓶を持った沢野が砂の上にいるのに水中メガネをかけている。何してるのかねえ(笑)。
椎名沢野がかぶっているのは何だ?
目黒シャツかタオルを頭の上に載せてる(笑)。
椎名その琵琶湖旅には東京から酒を持っていったんだよ。
目黒売ってるでしょ琵琶湖に。
椎名酒が現地にないと困るっておびえたんだよ(笑)。
目黒式根島の写真もいいよ。このときは何人?
椎名一四人だったかなあ。キャンプ客は全部一か所の砂浜に集められてなあ。このときの「ヤマダ騒動」については最初の『わしらは怪しい探検隊』に書いている。
目黒この式根島の写真は、たぶん到着してテントをたてた直後の写真だろうけど、沢野が意味なくカメラに向かって両手をひろげている(笑)。
椎名あいつはいつも足か手をひろげている(笑)。
目黒いちばん感慨深いのは、椎名と沢野と子安と依田君の四人が冬の粟島にでかけたときの写真。このときのことは椎名が幾度かエッセイに書いているけど、海が荒れて船が出ないんで何日か民宿に延泊したと。そのときの四人の写真なんだけど、部屋の中でみんなでみかんを持ってふざけている写真がある。椎名も沢野も若いんだけど、ここに映っている子安と依田君がいまは亡くなっているということを考えると、なんだか感慨深いよね。この本の副題通りに、本当にこれが青春だったなあと。
椎名そうだなあ。
目黒しかし、よくこんなに写真が残っていたよねえ。
椎名おれが持っていたんだ。
目黒この琵琶湖の沢野の写真を見てよ。カメラに向かってこいつはいつも何かするんだ。このときはコーラの缶を突き出している。
椎名ばかだねえ(笑)。
目黒この本の最後に、東ケト会の現存するパンフレットが、「第5回式根島」と「第7回粟島」のときのものがまるまる復刻されて載っている。これを書いたのは当時の椎名で、いまとなっては貴重な資料だよねえ。だから、すごくいい本なんだ(笑)。おれの記憶では椎名から渡されたテープがひどくて(笑)、まとめるのに苦労した記憶があったから、これを再読するとき、ひどい本なんだろうなと思ってたんだけど、その対談も面白いんだよ(笑)。これが絶版とはもったいない。
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