『あやしい探検隊 焚火酔虎伝』
目黒それでは、『あやしい探検隊 焚火酔虎伝』です。1995年10月に山と渓谷社から刊行されて、1998年10月に角川文庫と。
椎名「山と渓谷」に連載したやつだな。
目黒そうだね。探検隊の記録としては六冊目です。ええと、まずは粟島で木村晋介が歌った「赤い炎がちょと出たよ節」のテープがあった、とここで椎名は書いているんだけど、本当にそんなテープがあったの?
椎名覚えてないなあ。
目黒テープをまわしたなんてことがあのころあったとは思えない。
椎名違うかなあ。
目黒でもね、その「赤い炎がちょと出たよ節」の歌詞が延々引用されているんだ。椎名が作ったにしてはかなり上出来(笑)。
椎名あ、そうか。あのときは映画を撮ったんだ。だから木村の即興歌も自動的に録音されたと。そういうことだな。
目黒あ、なるほどね。やっと謎が解けた。
椎名粟島へ行った話が出てくるの?
目黒いや、回想として出てくるだけ。あとは調布から神津島へ飛行機が出ているとは知らなかった。たった45分で行くとはすごいね。
椎名神津島に行ったときって「歯カツオ」事件があったときじゃないか。
目黒ああ、カラスに襲われたやつね。
椎名すっごくうまいんだよ、歯カツオって。カツオなんだけど、マグロの味がする。身くずれが早いから内地ではあまり食べられない。それが神津島にあったから、リンさんが刺し身にして、すぐ食べてしまえばよかったんだけど、発砲スチロールの箱に入れて露天風呂に行っちゃったんだな。
目黒で、キャンプ地に帰ってきたら。
椎名カラスに襲われてぐちゃぐちゃになっていた。歯カツオの半身はそっくり姿を消していたし。
目黒持っていかれちゃったんだ。
椎名あとは、ホウレンソウにニンニクにタマネギも、一切合切。ビールの缶にもボコボコと鋭い嘴の突っつき跡があったね。さすがにアルミ缶に穴を開けるところまではいかなかったけど。
目黒一応、つついたんだ。
椎名ただね、ショーガは無事だった。カラスはショーガが苦手であることをオレたちは学んだね(笑)。でもな、そういうことがあったのに3年前にもまたやられたんだよ。
目黒またカラスに?
椎名雑魚釣り隊で北海道に行ったとき、たくさん魚を釣ってさ、バケツにいれて、上から布巾をかけてまた露天風呂に行ったら、帰ったら全部カラスに食われていた。
目黒どうすれば予防できるの?
椎名固い箱に入れて、上に石を乗っけておくとか、そういうふうにしないとダメだな。
目黒最後にちょっと厳しいことを言いますが、山と渓谷に連載したものだから、八ガ岳でアイスクライミングしたりとか、探検の内容は本格的なんだけど、エッセイとしてはどうかなあ。カラスに襲われたりするのはおかしいけど、全体的には別にどうってことはない。実際に旅するほうは気の合った仲間と行動するわけだから面白いんだろうけど、何回も言うようにそれとエッセイは別の話でね。初期探検隊の、目的地に着いた途端に「帰ろうよ」と言いだすやつとか、暗い目をしてぺっと唾をはくやつとか、そういう連中がいたほうが読み物としてはやっぱり面白い。実際の旅は、そんなやつがいるとつまらないんだけどね(笑)。オレがもう行かなくなった旅でも、初期のころに福島へ行った旅があっただろ。バンツ1号から2号につぐってトランシーバーで言うやつ。ええと、『あやしい探検隊北へ』だ。あれ、すっごく面白かった。
椎名くだらないよな(笑)。
目黒あとね、この本の最後に座談会がつくんだけど、これはやっぱり本としてのバランスが悪い。たぶんページが足りなかったから急いで足したというのはわかるけど、あまりにもバランスを欠いている。
椎名むずかしいところだな。
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