『ガリコン式映写装置』
目黒次は、『ガリコン式映写装置』です。1994年4月に本の雑誌社から出て、2001年に幻冬舎文庫と。
椎名これ、毎日新聞に書いたやつだろ。
目黒いや、それは半分だけ。雑誌「CLiQUE」に連載した「あひるのうたがきこえてくるよ」の製作日記と、毎日新聞に書いた映画よもやま話、こっちは作る話ではなくて、見る話だね。この2本を中心に、あとは他誌に書いた映画関連エッセイを足して一冊にしている。
椎名寄せ集めか。
目黒本の雑誌社から出た本なんで、てっきり本の雑誌に書いたものと思っていたら違うんだね。
椎名毎日新聞に書いたエッセイは「ガリコン式愚考装置」というタイトルでさ、このガリコン式とは何かって読者のお便りがたくさんきたことを覚えている。
目黒あ、それ、本人が書いているよ。あまりにそういう投書が多かったんで、編集部から「説明釈明きりきり申し述べよ」と言われたと。で、蓄音機の手回しハンドルは油が切れたときにガリコンガリコンと軋んだ音がすると。そういうふうに私もモノゴトを考えていきますと、そういう意味のタイトルでありますと本人が釈明している。
椎名あんまりいいタイトルじゃないな。
目黒言わんとすることはわかるけど、読者に伝わりにくいね。
椎名失敗だな。
目黒「あひるのうたがきこえてくるよ」の製作日記には、「会津街道血ケムリ宿」というタイトルがついているんだけど、これは「うみ・そら・さんごのいいつたえ」のときの製作日記とは天と地ほどの違いがある。「うみ・そら・さんごのいいつたえ」のときは日記形式で、それも映画とは関係ない椎名の日常まで書いていたので、映画は椎名の一部にすぎないってことが読んでいると伝わってきて、とても新鮮だった。ところがこの「あひるのうたがきこえてくるよ」の製作日記は、当たり前だけど、映画オンリー。まあ、映画以外のことまで書いちゃう『フィルム旅芸人』が異色で、この「会津街道血ケムリ宿」のほうが真っ当なんだけど、いま振り返って読むと、「会津街道血ケムリ宿」はそうですか大変でしたねえという感想しかない。ほんのちょっとの差なんだけど、その差は意外に大きい。なかなか難しいね。
椎名何も考えずにやってるだけだからなあ。
目黒あとね、「あひるのうたがきこえてくるよ」の製作日記に何度も「アヒルの教育」と映画の題名が表記されているんだ。ということは、当初はこのタイトルで進行していたということ?
椎名そうなんだ。そのまま「アヒルの教育」でいけばよかった。それも失敗だったな。
目黒ただね、映画を見る側の話、よもやま話は結構面白い。たとえばね、昔の新東宝映画で宇津井健主演の「スーパー・ジャイアンツ」という映画があって、宇津井健が白いウェットスーツのようなものを着て駆け回るスーパーヒーローものだったらしいけど、宇宙船がトタンを丸めて作りましたというお粗末なものだったとか、よくそんな昔のこと、覚えているよねえ。
椎名スーパー・ジャイアンツが空を飛ぶときは、腰のあたりにピーンと張ったピアノ線がくっきり見えてしまうしさ。つくづく悲しかったのを覚えているな。あとな、宇宙船を操縦するシーンで、宇津井健がなにもない壁をさわるんだよ。
目黒壁に把手とかなにかないの?
椎名なにもなくて、のっぺらぼうなんだ(笑)。
目黒でもね、「007は二度死ぬ」って映画があって、これは一九六〇年代に日本でロケしたんだけど、宇宙空間でロケットがソ連の人工衛星をパクッと食べちゃうシーンがいま見ると、すごくチャチ(笑)。だから、新東宝だけがチャチだったわけじゃないよ。
椎名そうかあ。
目黒あとね、椎名が「刑事コロンボ」のファンだとは知らなかった。
椎名お前、見てないの?
目黒何回かは見たけど、熱心なファンではなかったね。
椎名いつも録画して見てたよ。
目黒それと、へーっと思ったのは、伊藤典夫氏と会ったときアガッたというのが意外だった。椎名もアガることがあるんだって。
椎名だって、我々の憧れの人だろ。
目黒そうだね。SFマガジンのカラーページで、「エンサイクロペディア・ファンタスチカ」を書いていた人だものなあ。あれを読むためだけにSFマガジンを買っていた。あそこに書いてあることが当時のオレの全世界だった。
椎名だろ? 深町真理子と浅倉久志、そして伊藤典夫の3人は特別だよな。
目黒でもアガるとはなあ。
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