『中国の鳥人』
目黒次は『中国の鳥人』です。1993年7月に新潮社から刊行されて、1998年1月に新潮文庫と。これは、小説新潮に書いた4編、小説中公に書いた2編、別冊文春に書いた2編をまとめたSF短編集です。これは文庫版の解説を大森望が書いているんだけど、それが面白かった。
椎名ほお。
目黒SF短編集とか日本SFとか、そういう言葉をなるべく使わずに書いてくれ、と編集者から解説を依頼されたというんだね。まだSFが冬の時代だったころだから、SFとついちゃうと本が売れないと。まあ、たしかにそういう時代だったかもしれないけど、「SFと言われたくないんならSF屋に原稿頼まなきゃいいだろ」って大森がむっとする気持ちもよくわかる。単行本にも文庫版にも、どこにもSFの文字はないけど、これはまぎれもなくSF短編集だしね。
椎名これは映画になったんだよな。
目黒この文庫にも映画スチールを使った帯がついてるね。監督が三池崇史で、主演が本木雅弘と。
椎名「たどん」も映画になったと思う。
目黒それはまあまあ面白かった。8編を収録した作品集なんだけど、ベストは「スキヤキ」だと思う。次が表題作。この2作はいい。譲っても「たどん」まで。「思うがままの人生」とか「ちくわ」は、おそらく何も考えずに書き出したんだろうけど、苦し紛れの作りが目に見えていて、ちょっと辛い。だから、玉石混淆の作品集だね。
椎名「スキヤキ」ってどんな話?
目黒えっ、覚えてないの? 小説新潮の1991年7月号に書いた短編だけど。
椎名20年以上前に書いた短編なんて、覚えてないよ。
目黒戦争から帰ってくる夫のためにスキヤキを用意して待つ妻の話。
椎名ふーん。
目黒大森望の文庫解説から引けば、
なんの説明もなく「異常な状況」だけをぽんと差し出し、その背景を読者に想像させるという「いそしぎ」の手法は、やがて『アド・バード』『水域』『武装島田倉庫』の輝かしいSF三部作へと結実していくことになる。
というところに椎名SFの特徴があるんだけど、「スキヤキ」もこの系列に連なる作品だよね。
椎名なるほど。
目黒あと、この文庫本の巻末に、「椎名誠・短編集収録作品リスト」が載っている。これ、すごくいいね。
椎名どれ?
目黒ほら。この文庫が出た1998年の段階で、椎名の作品集は全部で17冊で、あ、ここでは『岳物語』と『続岳物語』は長編の扱いではなく、作品集の扱いなんでこの数字になるんだけど、それぞれの作品集に収録された短編の初出まで載っているんだよ。たとえば、第一作品集は角川書店から刊行された『ジョン万作の逃亡』で、ここには5編が収録されていて、そのいちばん最初は、海の1980年6月号に載った「ラジャダムナン・キック」であるとすぐにわかる。「いそしぎ」はSFアドベンチャーの1981年10月号に載った短編だと。
椎名ほお。
目黒あの傑作が意外に早い段階で書かれていたことがわかる。こういうリストが付いていると便利だよね。時々、作品数の多い作家の新刊の末尾に、それまでの著作リストがつくことがあって、獏ちゃんとかね。すごく便利なんだよ。おれ、時々、そういうリストが付いているだけで、読みもしないのにその本を買うことあるもの。これはいい資料だと。
椎名それはお前みたいな特殊なやつだけだろ。
目黒そうかなあ。いいアイディアだと思うけどなあ。
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