『地下生活者』
目黒それでは問題の『地下生活者』です。
椎名なんだかイヤな予感がするなあ(笑)。
目黒ええと、文芸誌すばるに書いた中編の表題作と、短編「遠灘鮫腹海岸」の2編で成り立っている小説集で、1993年2月に集英社から刊行。『地下生活者/遠灘鮫腹海岸』という書名になって、1996年12月に集英社文庫に収録という本なんですが、これはどうかなあ。
椎名もう帰ろうかなあ(笑)。
目黒短編の「遠灘鮫腹海岸」は、車がどんどん砂に潜っていく話で、ある種のエスカート小説だね。状況がどんどん深刻化していくというやつ。この手のものの傑作を過去に椎名は書いていて、それに比べると切れ味は劣るけど、百歩譲ってまだいい。次の問題の『地下生活者』にいく前に、もう少しこの「遠灘鮫腹海岸」の話をしておくと、この短編の中に、こんな記述がある。
丹野のワゴン車は戦後どさくさ時の北政府進駐を前に、おどり豆の二重売りで儲けた 金をつぎこみ、やっと手に入れたものだった。
つまり、『武装島田倉庫』と同じ背景を持つんだね。こういう作品は外にも書いているの? つまり、北政府が物語の背景に出てくるやつ。
椎名書いてるよ。
目黒北政府ものがあるんだ。
椎名短編を書いてるよ。それが1冊にまとまっている。
目黒じゃあ、今後このインタビューのテキストとして出てくるんだ。いやあ、北政府ものを発見して嬉しかったよ(笑)。ということで、問題の中編にいきますが。
椎名(笑)。
目黒この「地下生活者」は地下鉄の通路に閉じ込められた人間たちの話で、それはいいよ。だんだん異形化していく→水を飲まなくなる→死んでいることに気づく→思念だけになる→思念だから簡単に地上に出ることが出来る→家や職場にいく、とこれもどんどんエスカレートしていくんだけど、どこにポイントがあるのかわからない(笑)。全部均等に語られるだけなんだ。プロットも作らず書きはじめたら、どんどん苦しくなって、先に進まざるを得なくなった、という感じだね。
椎名そうか。
目黒それぞれは面白く膨らませることが出来るよね。どんどん異形化していったらどうなるのか、思念だけになって地上に出たらどうなるか、膨らませることが出来るのに、そういう道を選ばず、これはどんどん先に進むだけ。たとえばね、思念だけになって地上に出て、家庭にいくんですよ。すると妻や子供がいるんだけど、彼らにはこちらが見えない。ただ観察してるだけ。よくある話だけど、ここを書き込むことは出来るよね。ところがそこも素通りしちゃう。それに「地下生活者」なのに、地上にいるんぜ(笑)。
椎名プロットを考えないで書くことの悪いケースだな。
目黒しかも職場にいってイヤな同僚にパワーをおくって新聞を開かせるの。なんとそれだけ。くだらないよね(笑)。ユーモアSFではないんだよ。おまけに妻に話しかけると妻が答えたりする。えっ、妻にはこちらの声が聞こえていたのか、と驚くんだけど、それもそのままで何も展開しない。思念でムカデをつかまえたりするのもその延長で、ただの思いつきで終わっている。だから、はっきり言います。これは失敗作だよ。
椎名おれも書いてて、よくわからなかったよ(悪)。
目黒「遠灘鮫腹海岸」は映画になったんだっけ?
椎名おれが撮って、オムニバス映画「しずかなあやしい午後」のうちの一編になった。
目黒あとの2編は何?
椎名和田誠さんの「ガクの絵本」。
目黒それはどんな内容なの?
椎名ガクの老後を描いた短編映画だよ。ガクが幼かったことを思い出すと、子供のころのガクが野原を駆け回ったりする。その部分はガクの子供たちが演じているんだけどな。
目黒それ、見たいなあ。DVDになってるの?
椎名なってるよ。あと1本は沢野の「スイカを食いに」をアニメーションにしたやつ。監督は太田和彦。
目黒アニメはいいや。
椎名DVDを送るから、全部見ろよ(笑)。
目黒ガクだけでいいけどなあ。
椎名3本とも見ろよ。あとで感想聞くからな(笑)。
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