『ひるめしのもんだい』

目黒次は、ええと、『ひるめしのもんだい』です。1992年7月に文藝春秋から本になって、1995年8月に文春文庫と。これは週刊文春に連載しているエッセイ「新宿赤マント」をまとめたものだね。その第1巻。椎名のエッセイの中でも質の高いものだと思う。まあ、行動録が中心だね。元版のときに読んでいるはずなんだけどすっかり忘れていたから、今回びっくりしたのがニューギニアに行ったとき、飛行機が出発時間より前に飛んでしまって乗れなかった(笑)という話。これはびっくりしたなあ。しかも次の飛行機が飛ぶまで3日も待たされたというから驚くね。

椎名まったくなあ(笑)。

目黒シベリアあたりで出発時間がきても飛ばないということは、以前椎名のエッセイで読んだことがあるけど、そのときも3日待たされたという話だったと思うけど、出発時間より前に飛んじゃったというんだぜ。すごいよなあ。

椎名むこうの言い分はさあ、定員になったから待つ必要がなかった(笑)というのさ。

目黒ちょっと待って。ということは定員以上の飛行チケットを売っているということ?

椎名いいかげんなんだよ(笑)。

目黒チケットを買っていても、早く空港に行く必要があるんだ。満員になる前に乗らなくちゃと。まあ、これは20年前のことだから、いまは違うんだろうねえ。このあと、ニューギニアには行ってないの?

椎名行ってる。

目黒どうだった?

椎名さすがにこんなことはなかったな。

目黒そうだよねえ。

椎名そのころの旅は長かったからなあ。だいたい1カ月くらい行ってたから、まあ3日くらい待たされても支障はなかったけどね。

目黒それ、1週間くらいの旅だったら大変だよ。3日も待たされたら旅の計画がめちゃめちゃだぜ。

椎名(笑)。

目黒それと、椎名は正直だなあと思ったのが、次の記述。

ぼくはこれまでただの一度も「国家」とか「平和」とか「戦争の責任」とか「差別」といった大きな問題を真剣に考えたことがない。ついでに憲法も資本論も読んだことがない。さらに朝日新聞の論説も読んだことがない。

これさ、たとえこれが本当のことでも、物書きなんだから書けないよね。もう少し見栄を張りたくなるじゃない。資本論は読んでないが憲法は読んでるとかさ。

椎名でも本当のことだから仕方ないよな。

目黒ただね、椎名のいけないところは、こういう記述が続いているんだよ。

よくこれで週刊誌や新聞などに原稿を書くような仕事をしているものだと自分でも少々あきれるのだ。もっともこのコラムのイラストを書いている沢野ひとしもぼくの知っているかぎり、同じようなものである。だからいつも彼を見て安心していた。

こういうバカの例を出しちゃいけないんだよ(笑)。私はバカだけど、もっとバカなやつがいるんですよって論法だからね、これは。

椎名でも沢野が資本論を読んでいるわけねえぞ(笑)。

目黒そりゃそうだろうけど、もっとひどいやつがいるだろうからオレは許されるってのはダメだよ(笑)。

椎名そうだなあ。

目黒この赤マント・シリーズの単行本はオレ、好きなんだよ。沢野の絵を使った南伸坊さんの装丁がいいし、小B6の版型もお洒落だし、タイトルもだいたいいいよね。文庫にすると、タイトルは同じでも版型が普通になっちゃうから、これは絶対に小B6の元版がいい。

椎名このシリーズのタイトルはほとんど目黒に見てもらっているからな。一回だけ目黒に見せなくて作ったら失敗したことがある(笑)。

目黒なんかあったなあ。

椎名このシリーズはこういうイメージで統一しようってものがおそらく目黒にあるんだな。だから、それに合うタイトル案をオレが出すと、だいたい採用される。

目黒もっとずっと後の話だけど、赤マント・シリーズの10巻目だったかなあ、そういう区切りのいい巻があって、オレも文庫版の解説を書いたことがあるんだよ。このシリーズの文庫解説は全部沢野が書いているんだけど、記念の巻だから沢野も書いて、おれも書いて、二人の解説つき。

椎名あったなあ。

目黒そのときにこれまでの沢野の全巻解説をコピーして送ってもらったんだよ。それを全部読んでから書こうと思って。するとね、1巻から3巻までは沢野の解説がなかなかいいんだ。おやっと思ってね。あいつ、やるじゃん、と。ところが、そのうちにネタがなくなってくると途端につまらなくなる(笑)。だから最初の3巻までは、全部いいんだよ。タイトルも佇まいも装丁も解説も。

椎名あいつもなかなかうまくなってるよ。

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