『ドス・アギラス号の冒険』

目黒それでは、『ドス・アギラス号の冒険』にいきます。1991年11月にリブロポートから刊行されて、2002年10月に偕成社から版型を変えて新装版を刊行と。最初のリブロポート版はA4横長44ページだったけど、偕成社版は四六版96ページ。まず、その偕成社版はあとにして、リブロポート版からいこう。この本を刊行するにいたったいきさつを教えてくれる? というのは、中を見ると、これ、難しいよね言葉遣いが。絵本なんだけど、明らかに児童向けではない。漢字がいっぱいあって、ルビも振ってないんだ。だから絵本といっても大人の絵本なんだね。このいきさつ、覚えていない?

椎名よく覚えていないんだけど(笑)。

目黒やっぱり(笑)。

椎名リブロポートはもともと大人向けの本を出版しているところだから、最初から児童向けの絵本を作るつもりはなかったんじゃないかなあ。

目黒この本の1年前に、講談社から『夏のしっぽ』という絵本を出していて、あちらは完全に児童向けの本だったけど、これは違うよね。

椎名そうだね。

目黒『自走式漂流記』の「椎名誠、全自作を語る」を読むと、「沢野ひとし以外のイラストレイターと組んだ初めての本です」とある。これは何の意図があったの? 新しいことをしたかったということ? この本の絵はたむらしげるさんなんだけど。

椎名前から好きな人だったんだよ。雑誌などの挿絵を見ていて、この人の絵はいいなあと思ってた。

目黒おれはよく知らないんだけど、この『ドス・アギラス号の冒険』の絵を見ていると、SF短編小説の挿絵として実にいいよね。

椎名ご本人もSFを好きだしね。ファンタジックなアニメーションも作っている。

目黒じゃあ、この本を出したときには著名な人だったの?

椎名そりゃあ有名な人だよ。

目黒このあとも、こういう絵本は出してるの?

椎名こういうって、どういうこと?

目黒だから『夏のしっぽ』みたいな児童向けの絵本じゃなくて、大人向けの絵本。

椎名いや、そういうのはこれだけだな。

目黒じゃあ、椎名にとっては異色の本だね。

椎名これが絶版になったとき、余った本を貰ってね、知人に一冊ずつプレゼントした記憶がある。

目黒椎名の場合、そういうふうに絶版になった自著を版元から貰うってのは少ないでしょ?

椎名少ないな。

目黒おれの本はすぐに絶版になるから(笑)、編集者が知り合いだと「いる?」って電話がかかってきて、「いるいる」って送ってもらうの。でも10年20年たつと知り合いに一冊ずつあげていくから、気がつくとなくなっているんだ。もっと貰っておけばよかったなあって。

椎名この『ドス・アギラス号の冒険』はプレゼントしたら喜ばれたよ。

目黒これはそうだろうな。で、その11年後に偕成社から版型を変えて新装版を出しているんだけど、これは絶版になってずいぶんたってからなんだ。

椎名うん。

目黒偕成社版のいきさつ、覚えてる?

椎名覚えてないなあ。

目黒絵はもちろん、たむらしげるさんなんだけど、文章がね、漢字をひらがなにしたり、ルビを振ったりしていて、読みやすくなっている。児童向けになっているんですよ。椎名の意図だったのか、版元の意図だったのか、覚えてないか。

椎名思い出した。アルゼンチンに行ったときにね。

目黒アルゼンチン?

椎名いつもはチームを組んで行動してるんだけど、たまたま一人で数日ホテルに泊まったんだよ。まわりは海岸で、何もないから、ずっとホテルにいるしかない。

目黒それはパタゴニアに行ったとき?

椎名いや、テレビのドキュメンタリーで河を遡上する旅だったな。

目黒いろんなことをしてるんだねえ。

椎名で、することないからテレビをつけるんだけど、言葉がわからないからつまらないんだよ。そうやって見ていたら、アニメーションが始まって、日本語が聞こえてくる。たむらしげるさんの「ファンタスマゴリア」というアニメーションなんだね。ファンタジックな話で、1話5分くらいで全15話だったかなあ。それがむこうのテレビにかかったわけ。何語か知らないけど、字幕が出てね、でも日本語で喋っているから、おれはわかるわけよ(笑)。これが面白かった。

目黒ほお。アルゼンチンで遭遇するなんてすごいね。

椎名で、日本に帰ってからDVDになってないかなあって探したんだけど、見つからなくて、それでトクの「雑遊」(居酒屋池林房チェーンの経営者太田篤也が2006年1月に開いた地下のフリースペース。演劇や映画会、トークショーなどを実施している)で「もぐら座」という映画会をやったときに、たむらさんにお願いしてDVDを貸してもらって上映したんだ。たむらさんにも当日きてもらってね。みんな、感動していたよ。

目黒いい話じゃん。

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