『武装島田倉庫』
目黒次は『武装島田倉庫』です。小説新潮に連載して、新潮社から単行本になったのが平成2年12月、新潮文庫に入ったのが平成5年11月。これは面白かった。連作短編集で、最初の表題作は、島田倉庫に就職する男が中心になる。結構怪しげな倉庫で、こっそり中身をかすめ取ったり、やばいことをしたりする。なんでその倉庫が武装するかっていうと、盗賊団が襲ってくるんで倉庫側も武装せざるを得なくなるんだね。椎名SF3部作のなかではベスト1の呼び声が高い作品ですが、たぶん確信犯なんだろうけど、微妙にクロスしてるんだね。最初に出てきたやつが後半も出てきたりとかね。
椎名それは連作集を書くときの愉しみだよ。これは後半にもう一度出そうとか考えながら書くってのは。それに見出しに凝った記憶がある。
目黒見出し?
椎名全部6文字で統一しているだろ?
目黒連作短編の、それぞれのタイトルだね。それをここに書き写しておこう。
武装島田倉庫(ぶそうしまだそうこ)
泥濘湾連絡船(でいねいわんれんらくせん)
総崩川脱出記(みなくずれがわだっしゅつき)
耳切団潜伏峠(みみきりだんせんぷくとうげ)
肋堰夜襲作戦(あばらダムやしゅうさくせん)
かみつきうお白浜騒動(「魚」へんに「乱」、「魚」へんに「齒」しらはまそうどう)
開帆島田倉庫(かいはんしまだそうこ)
たしかに漢字6文字で統一している。
椎名こういうのを考えるのが楽しいんだ。
目黒物語の背景が少ししか語られないってのもいいね。どうやら北政府と揉めていて、昔は戦争もあったらしい。その北政府ってのが何なのかはいっさい説明されないんだけど、北政府が山岳攻略の主力に使った9足歩行器が置き去りにされているとか、戦争中に北の連中が海の中にいろんな薬を蒔いておかしくしてしまったとか、最近は各地で北政府が夜襲や挑発攻撃を始めたらしいとか、全部は語られないけど、微妙に語られる。これがいいね。
椎名このころ、お前に聞いたんだよ。
目黒えっ、何が?
椎名背景の全部を語らないほうがいいんだと、お前に聞いたんだよ。
目黒あっ、そうなの?
椎名そうだよ。説明するとつまらなくなるって。
目黒椎名SF3部作を「うまい」と「面白い」でわけると、『アドバード』が「面白い」で、『武装島田倉庫』が「うまい」んだ。で、『水域』はそのどちらにも入らなかったんだけど、20年ぶりに再読してみると、これがいちばん「すごい」。ただいまはあれがベスト1だね。
椎名おれはこの『武装島田倉庫』がいちばん好きだな。
目黒椎名はよくそう言うよね。日本SF大賞は『アドバード』じゃなくて、この『武装島田倉庫』で欲しかったと。
椎名そうだな。
目黒いや、これはたしかに傑作ですよ。でも、これも道具立てがいっぱいあって、これだけあれば書けるだろって気がする。ちょっと言い過ぎかなあ。でも『水域』は水に覆われた地域をただ旅するだけだよ。物語に濃淡が基本的にないよね。それなのに圧倒的に読ませるのはすごいよ。そういう意味でいうと、1990年前後の、椎名SFの頂点は『水域』じゃないかと思う。このころの椎名は才能があふれていたから、『アドバード』も書けたし、『武装島田倉庫』も書けたけど、SF作家としての椎名の真骨頂はむしろ『水域』にある。そんな気がするんだ。
椎名それ、力強く書いておいてくれる?(笑)。
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