『小さなやわらかい午後』
目黒次は写真集の『小さなやわらかい午後』。1990年に本の雑誌社から刊行と。このころは写真集が多いね。
椎名そうだな。
目黒まだおれが発行人のころなんで、この本の責任者でもあるんですが、いま読み返しても特に感想がない(笑)。
椎名本の雑誌社の経済的事情で出した本だよな。
目黒それを言ってはミもフタもない(笑)。岳ちゃんが可愛いよね。まだ三歳かな四歳かな。お母さんに髪の毛を切られている連続写真が何枚かあるんだけど、最初はおとなしくしていても最後には泣きだしている。人間と犬は、ちっちゃいころが可愛いなあ。
椎名多田進さんの装丁がいいよな。
目黒タイトルもいいよ。これ、椎名なの。
椎名おれだよ。
目黒いいねえこれ。若い女性読者を意識したのかなあ。
椎名そうだろうな。
目黒これ、すごいよ。1990年に出て、その4年後に5刷になってる。
椎名すごいなあ。いい時代だったなあ。
目黒80ページもない本なのに、定価が1600円。
椎名あくどい商売だなあ(笑)。
目黒いや、苦しかったんだよたぶん。もう覚えてないけど(笑)。
椎名あのさ、おれの写真集って写真と文章が相互に補完しあっているだろ。もう少しあとに本の雑誌社から文章のつかない写真だけの本が出てくるけど、それを除けば、写真と文章が互いに補完しあう手法で一貫している。写文集ってやつだな。
目黒その文章の量が本によってかなり違うよね。たとえば『風の国へ・駱駝狩り』では長めの文章だったのに、『街角で笑う犬』では一転して短い文章になるし、この『小さなやわらかい午後』も短い文章だ。あ、そうだ。この『小さなやわらかい午後』で好きな写真があるんだ。
椎名なに?
目黒どこの島かわからないけど、港に小学校低学年かまだ幼稚園か、そのくらいの幼い七人が船がはいってくるのを待っているんだろうな。並んでいる。その左端の二人が片足をあげて柵に足をかけようとしているんだけど、なにしろ体そのものが小さいから、なかなか足が柵にかからない。その瞬間を切り取っている写真だけど、これ、いいなあ。
椎名どれ?
目黒これ。写真を載せられればいちばんいいんだけど、その写真が右ページにあって、文章は左ページに一行だけ。「もうじきもうじき連絡船がやってくるんだ」。いいよね。
椎名ほお。
目黒これがいいのは、片足を上げているのになかなかかからないっていて動きがあること。『風の国へ』のハミウリ少年の写真も、顔の両端からハミウリがはみ出していたでしょ。あれも絶妙な「動き」だよね。それに、ハミウリ少年も、この港の七人の子供たちも両方ともに後ろ姿なんだよ。だから、想像力が刺激される。そういえば、『街角で笑う犬』の港の少女も後ろ姿だったな。
椎名そういう写真を撮った感性を褒めてもらいたい(笑)。
目黒『風の国へ・駱駝狩り』『街角で笑う犬』という写文集は文庫になっているけど、この『小さなやわらかい午後』は文庫になってないよね。椎名の本で文庫になってないのって結構あるんだ。
椎名そりゃあるよ。
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