『なつのしっぽ』
目黒それでは『夏のしっぽ』。1990年4月に講談社から刊行された絵本ですね。「ぼくがガリ版刷りで『月刊おれの足』を出していたとき、沢野は対抗して『月刊わたしの手』を出していました。その創刊号に注文をうけて書いた童話が『夏のしっぽ』の原型でした」と、『自走式』に書いてある。
椎名そうそう。沢野の『月刊わたしの手』に書いたんだ。
目黒作家が童話を書くときって、欧米作家の場合、自分の子供や孫が幼いときに書くってよく聞くよね。椎名はそういうわけではなかったと。
椎名うん。宮沢賢治が好きだったから、ああいう童話を書きたかった。
目黒沢野の『月刊わたしの手』は見たことがないからわからないけど、それはどんなガリ版雑誌だったの? 椎名の『月刊おれの足』は、1968年5月号が『自走式』に復刻されているから、だいたいの内容は推察できるんだけど。
椎名ああ、まわりが焼けているやつな。
目黒そうそう。沢野家が火事になったとき、その焼け跡から奇跡的に出てきた1部を完全復刻したやつ。全16ページだったな。くだらないんだよ、特集が「パンツが行く」ってもので、「レポート/パンツの市民意識はどう高まったか」「ドキュメント/破れたパンツ」「論文/パンツ学へのささやかな接近」と見出しが並んでいる。これ、ガリの字を見ると全部椎名が書いたんだ。イラストも全部椎名だね。
椎名暇だったんだなあ。
目黒沢野の『月刊わたしの手』も、こういうお遊び雑誌?
椎名いや、沢野のは真面目な絵本研究誌。
目黒そうか。あいつは法政の絵本研究会だ。そういえば、あいつがまだこぐま社に入る前、真面目な児童文学の研究誌を発行していて、その増刊号だったかな、タイプ印刷したいんで目黒くん、おやじさん紹介してってうちに来たことがある。なんだかうちのおやじと打ち合わせしていたよ。校正をやりにその後もきたな。
椎名結構真面目なところもあるんだよな。
目黒その創刊号が残ってたんだ。
椎名それをみた講談社の人がぜひうちで本にしましょうって言ってくれたわけだ。
目黒沢野のガリ版誌に載せたということは、その最初の童話はそんなに長くはなかったわけだよね。
椎名うん。だから講談社から本にするときは、おおまかな筋は同じだけど、量は全然足りないから、ほとんど書き下ろしになった。たしか講談社のなんとかっていうシリーズのいちばん最初に出たんじゃなかったかなあ。
目黒ええと、2番目だね。小学一年生からのどうわのシリーズ「どうわがいっぱい」の2番目。最初は、谷川俊太郎さんの『だれ?』で、椎名の『夏のしっぽ』はその次だね。
椎名これ、売れたんだよ。今年やっと絶版になった。
目黒えっ、それ、すごいなあ。だって初版は1990年だよ。それが2012年までインプリントだったの?
椎名またやりましょうって言われているから、そのうち沢野と組んでやろうと思っているよ。
目黒椎名は絵本って、これ以外に出しているの?
椎名いっぱいあるよ。
目黒おれの手元には1996年までのデータしかないからわからないんだけど、96年まではないんだよ。そのあとにあるってことか。
椎名そうだな。4〜5冊あるよ。もっとかな。
目黒えっ、全然知らないなあ。
椎名今年も出すよ。
<<<『アド・バード』へ 『小さなやわらかい午後』へ >>>
書籍情報はこちら » なつのしっぽ