『シベリア夢幻 零下59度のツンドラを行く』
目黒ええと、文庫化のときに改題したのは『雨がやんだら』だけだと以前言ったことは訂正します(笑)。これもそうでした。1985年11月に情報センター出版局から単行本になったときのタイトルは『シベリア夢幻』。それが1991年4月に集英社文庫に入ったときに『零下59度の旅』と改題。どうして変えたの?
椎名わかりにくんじゃないかと言われたんだ。『シベリア夢幻』だとシベリア抑留とか、そっち関係の本として受け取られる可能性があると。旅ものであるともっとはっきり書いたほうがいいと。
目黒なるほど、それで『零下59度の旅』に変えたと。これは椎名がつけたの?
椎名そう。
目黒これは面白かった。実は正直に言うと、読んでなかったんだ。今回が初読。いやあ、これ、面白いよねえ。北東シベリアのヤクーツクに行ったときの旅ルポというか写文集だけど、これは何の仕事で行ったの?
椎名TBSのドキュメンタリーの仕事。大黒屋光太夫の足跡を追うというやつ。
目黒単行本はどこから出たんだっけ?
椎名『シベリア追跡』は小学館だな。
目黒ヤクーツクの部分だけをこの『零下59度の旅』に書いたわけだ。
椎名写真集を出したかったからね。
目黒オレが無知なんだけど、この本のどこにも地図が載ってないので、ヤクーツクがどのあたりかわからない。
椎名バイカル湖の北あたり。世界でいちばん寒いオイミヤコンのちょっと南。北極よりも寒いんだからね。北極は結構温かいんだよ海流の関係で。北東シベリアの内陸部のほうが寒い。
目黒知らないことばかりなので面白かったということはあるんだろうけど、たとえばヤクーツクの居住霧。人間や動物の吐く息、煮炊きする湯気、自動車の排気ガスといったものが空中ですべて凍ってしまい、濃い霧になって漂う現象をこう言うらしいんだけど、なんだか全体がそのためにぼんやりしているんだよね。
椎名人工的なものだから一年中晴れないんだよな。
目黒あと面白かったのは、ヤクーツクの町は零下40度なのにアイスクリームを売っていて、それを歩きながら人々が食べていること(笑)。すごいよなあ。普通なら温かいスープとかラーメンを食べたいよね。それがアイスクリームなんだから。人々が暮らしているんだなあって実感する。
椎名アイスクリームなんて固まってるよ。
目黒それと傾いた家。あれもすごいなあ。永久凍土層の上に家が建ってるから、夏になると地表から2〜3メートルが溶けてしまって、そのために家が傾いてしまう。で、そのまま冬になると凍結して固まるから傾いたままになる。
椎名それを何十年も繰り返してるからなあ。
目黒写真が載ってるから、一目でわかる。ホントに傾いているって。
椎名このときに行っておいてよかったよ。
目黒最後のほうに3人のおばあちゃんの写真が載ってるけど、モンゴロイドだね。朝青龍そっくり(笑)。でも中のほうの写真を見ると、白人系の人も歩いている。
椎名いろいろな人が住んでたよ。
目黒あとがきを読むと、1984年の冬と、翌年の夏、2回訪れてるんだね。だからここにも冬と夏のヤクーツクの風景が収められている。写真を見ているだけでその変化、違いが興味深い。いい本だなあ、オレは絶対に行きたくないけど(笑)。
<<<『あやしい探検隊 不思議島へ行く』へ 『むはの断面図』へ >>>
書籍情報はこちら » シベリア夢幻