『あやしい探検隊 不思議島へ行く』
目黒次は、『あやしい探検隊 不思議島へ行く』です。週刊宝石に連載した旅ルポをまとめたもので、1985年9月に光文社から刊行されて、1993年に角川文庫に収録。この文庫本の解説を三島悟が書いているんだけど、これが鋭い。「あやしい探検隊」シリーズは、第1作『わしらは怪しい探検隊』、第2作『あやしい探検隊 北へ』、この第3作『あやしい探検隊 不思議島へ行く』、そして第4作『あやしい探検隊 海で笑う』と続いていくんだけど、第1作と第2作は東ケト会中心であり、第4作からイヤハヤ隊が中心になっていく。その間に位置するこの第3作はその端境期、転換期に位置する本であると。とてもわかりやすい解説だよ。
椎名なるほどな。
目黒内容は、東ケト会中心の国内焚き火旅と、編集者とカメラマンと作者の海外取材三人旅のごちゃまぜで、その意味では『あやしい探検隊 北へ』や『イスタンブールでなまず釣り』と同じなんだけど、ただこちらには猿島で無意味な焚き火をするくだりがある。
椎名ホントに無意味だよなあ(笑)。
目黒わざわざ焚き火するために行くかねえ(笑)。でもそれが東ケト会の旅だったから、その精神がここに残っている(笑)と言えば言える。だから、無意味な帝都縦断をする『イスタンブールでなまず釣り』よりは断然上。
椎名こっちは全部、島で統一してるからね。
目黒えっ、本当?
椎名与那国島からモルジブまで、全部、島へ行く旅だよ。
目黒ありゃ、気がつかなかった。
椎名気がついてくれよ(笑)。
目黒ごちゃまぜなのに、なぜか読後印象がいいのはそのためかもしれないなあ。いちばん覚えているのは、無人島の公衆電話。
椎名おっかあに電話したんだよ。いま無人島の公衆電話から電話してるんだぞって。あら、そうなのって驚いてくれなかったけど(笑)。まだ携帯電話のない時代だったからね。
目黒その公衆電話から椎名が電話する写真が文庫版の冒頭にカラーで入っているんだけど、この赤い漁師ズボンは八丈島で買ったやつでしょ?
椎名そうそう。
目黒おれも八丈島に行ったときに買ったよ。まだ椎名、持ってる?
椎名もうないよ(笑)。
目黒冒頭に、この本に出てくる「不思議島をめぐる人々」の写真がずらずらと並んでいるんだけど、ここに日向寺太郎君がいる。彼とはその後会ってる?
椎名東ケト会のドレイになりたいと手紙をくれた青年だね。その後、映画のスタッフになったという話は聞いたけど。
椎名この写真を見ると、みんな、若いよなあ。そういえば、この本に沢野があまり登場しないんだ。これまではよく一緒に旅してたのに。
椎名あいつも忙しかったんじゃないか。
目黒子安君と依田君の写真を見るとやっぱり感慨深いよね。二人とも数年前に亡くなってしまったから。このころは元気だったんだなあって。
椎名おれ、小説すばるで連載を始めたんだ。昔のところを訪ねるという連載。それで1回目に浦安を訪ねたんだ。
目黒子安の生まれ育った街だ。
椎名そこで子安のことを書いたよ。
目黒なんというタイトルの新連載なの?
椎名風景進化論。以前に出した本のタイトルと同じなんだけど、本にするときは変えようと思ってる。
目黒あの本は良かったからなあ。ああいうふうに、昔一度行ったところを再訪するってわけだ。それ、いいじゃん。でも、それ、自然のほうがいいね。
椎名どういう意味?
目黒たとえばさ、椎名がサラリーマン時代によく新橋あたりで昼食を食べてただろ。そういう定食屋を再訪してもあまり意味がないと思う。いまでもサラリーマンがたくさん昼どきにいるかもしれないけどさ。あるいは大きなビルになっているかもしれないけど、そんな変化は当たり前なんだから。それよりも、昔沢野と高校時代に行ったことのある川とかさ、そういう何でもない自然の風景がいい。もしくはさびれた町とか。昔と変わってなくてもいいんだよ。その風景を見る椎名が、三十年たって変わっているんだから。その内面の変化を書くことがおそらく二十一世紀の風景進化論なんだと思う。
<<<『岳物語』その3へ 『シベリア夢幻 零下59度のツンドラを行く』へ >>>
書籍情報はこちら » あやしい探検隊不思議島へ行く