『イスタンブールでなまず釣り』
目黒次は『イスタンブールでなまず釣り』です。1984年10月に情報センター出版局から刊行されて、1991年4月に文春文庫に入りました。こういうタイトルなんで、全部イスタンブールに、なまず博士の松坂さんと行った話かと思っていたら、そうではないんだね。文庫本で240ページあるんだけど、そのうちの100ページがイスタンブールの話。これはビーパルに書いたエッセイ。それ以外は、ドイツにビールを飲みにいく話とか、ビールを飲みにいきませんかと編集部に言われて、はいはいって行ったやつね(笑)、これは「るるぶ」。東京の団子屋をまわるエッセイとか、これは「旅」か。バスに乗るのが週刊ポスト。八丈島や東京湾を攻めたりするのがナンバー。つまり各誌に書いた旅ルポの寄せ集め。それでね、あれあれと思ったのが、単行本も文庫版も、イラストは椎名が描いているの。枚数は少ないんだけど、これ、珍しいよね。椎名のイラストは初期の本の雑誌でも何回か描いていて、結構味があるんだけど、プロになってからは大半が沢野だろ。このときはどうして?
椎名どういうの?
目黒覚えてないのかよ(笑)。ほら、こういうの。
椎名ああ、たぶん、沢野に説明するのが面倒で、それで自分で描いたんじゃないかなあ。
目黒たしかに「イスタンブールで買ったもの」とか、「有名ダンゴのいろいろ」とか、「毒きのこの種類」とか、「正しいカイボリのあり方」とか、説明するのが大変かもしれない。
椎名深い意味はないよ。
目黒アマゾンに行った人から蚊の話を聞くくだりがあって、それは面白かった。ずっと前に新宿で定期的にイベントをやってたころ、佐藤秀明さんが話していたことを思い出した。北極圏に行ったとき、蚊の集団がわーっと飛んできて、人間がいるとキーッとブレーキをかけて止まるって話。
椎名それはオレも後年に遭遇したよ。
目黒それだけは面白かったけど、あとはどうということもない。『日本最末端真実紀行』と同様に、いま読むとちょっと辛いね。いちばん理解しがたいのは、帝都縦断バスの旅ってやつ。あのね、最初になぜか浦安に集合するんですよ。当時、椎名は国分寺あたりに住んでたから、そこからわざわざ浦安まで行くわけ。ところが浦安から三鷹まで、また地下鉄に乗って戻ってくるんだよ。その間、地下鉄に乗ってるだけだから、何にも書くことがないんで三行くらいで三鷹に着いちゃう(笑)。ホントのバス旅はその三鷹駅前から始まるんだけど、だったら三鷹に集合すればいいじゃん。浦安に集合する意味がないよ。
椎名どこに書いたやつ?
目黒週刊ポスト。
椎名担当はPちゃんか。
目黒さすがに椎名も「なんとなくムナシイ話だなあ、と思いつつそうしなければ正しい縦断にはならないのだから仕方がない」と書いているから、ヘンだなあとは思ってたみたいだけど(笑)。
椎名思いつきの企画だなあ。
目黒ダンゴ屋をまわる話もくだらないよ(笑)。椎名と木村さんと、あとは長谷川君に依田君か。四人で東京の団子を食べ歩きするって企画。
椎名ばかだねえ(笑)。
目黒中身もつまらない(笑)。
椎名すごい勢いで原稿を書いていたころだなあ。
目黒デビューして4〜5年は、こういうふうに国内から海外へ、短い旅を結構してたよね。このあと長い旅をするようになって、いまはあまり旅に出ないでしょ。そういう変化がある。このころは、どこへでも飛んでいった時代で、本人には面白い時期だったかもしれないけど、その記録はいま読むとちょっと辛いというところだね。
椎名この本もすごく売れたんだよ。
目黒出版界にもいい時代があったんだ。
椎名このタイトルは気にいっているんだけど。
目黒これはいい書名だよ。椎名が考えたの?
椎名うん。
目黒椎名はタイトルを考えるのだけはうまいよ。
椎名それ、褒めてる?
目黒褒めてるじゃん。
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