『ネックレス・アイランド』

目黒次は『ネックレス・アイランド』。1984年7月に駸々堂出版から刊行された本です。これは『むははは日記』角川文庫版の256ページをまずは読み上げます。
 水中写真家でありすぐれたダイバーである中村征夫さんとお茶の水山の上ホテルで対談。中村さんの写真集『ネックレス・アイランド』の中に収録するためだ。南の島の写真を見ながらダイビング二十年間のおもしろ話、おそろし話を聞く。
 こう椎名が書いている。そして「増刊号」の「自著を語る」では、「これは中村征夫と初めて会ったその日に、いきなり対談して作った本です。ずいぶん乱暴を作り方でした。お互いに緊張してたから、あまり面白くない話をしています」とある。つまり、椎名としては中村さんの写真集に収録するために対談をしたというつもりなんだね。ところが本を見ると、これはどう見ても椎名と中村さんの共著だよね。

椎名中村さんとはオーストラリアのグレートバリア・リーフを一緒に潜ってね、そのときにいろいろ話を聞いたんだよ。それが面白かったから、それ本にしましょうよと言った。おれ、そのころ新しい書き手を探していたから。

目黒なんで?

椎名情報センターに紹介しようと思って。

目黒なるほど。

椎名そしたら日本に帰って中村さんからすぐに電話がきた。写真を見てくれませんかって。それを見たらすごくいいんで、対談しましょうってなったわけ。つまりおれがプロデュースした本だな。

目黒それに駸々堂が絡んできたのは?

椎名それが思い出せない。

目黒そういうことなら、少なくても中村さんと初めて会った日に対談したという「増刊号」の記述は間違いだよね? 

椎名そうだな。

目黒「ずいぶん乱暴な作り方でした」ってのも訂正しておく必要がある。それは版元に失礼だよ。

椎名そうだな。

目黒ただし、この本には幾つか注文がある。まず一つは、対談の冒頭で、この写真はどこですかと椎名が質問して、カッコして五十九ページとある。で、中村さんがトラック島ですと答えて対談が始まるんだけど、その五十九ページを探すと、写真のページにはノンブルが打ってないんですよ。

椎名そうか。

目黒だから、49、50、51、52と数えていかなければならない。これが面倒。しかもページ数が表記されるのはその1カ所だけだから、あとはどの写真の話をしているのかわからない。これが一つ。もう一つは、大変失礼なんだけど、この対談をまとめた方が、なんというのかな、編集のプロならもう少し整理するはずというところをしてないんだね。だから少々読み辛い。最後の1点はこれもその整理に関することなんだけど、延々二人の会話が続いていくよね。椎名とか中村とか表記せずに会話だけが続いていくんだけど、途中でこれ、どっちの台詞なのと何度もわからなくなる。固有名詞が出てくると、そうかこれは中村さんなんだってわかるんだけどね。何か工夫がなかったのか。この三点が不満かな。

椎名なるほどな。

目黒その3点を除けば、写真も綺麗だし、これはそんなにひどい本じゃないよ。椎名は「あまり面白くない話をしています」と「自著を語る」で言っているけど、話そのものは面白いよ。おれが知らない話が多かったということもあるのかもしれないけどね。海の中なんておれ、ほとんど知らないからなあ。

椎名これはやっぱり中村さんの本だろ?

目黒本の背も奥付も、「椎名誠 中村征夫」になっているんですよ。アイウエオ順で、椎名のほうが中村より先ということあるけど、だけどこれはどう見ても共著の作りだよね。椎名の意識の上では、中村さんの本をプロデュースして、その本の中に収録するために対談をしたということかもしれないけど、世間的にはこの作りは共著だよ。それは認めなければならない。

椎名わかりました共著です(笑)。

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