『日本細末端真実紀行』
目黒それでは『日本細末端真実紀行』にいきます。るるぶに連載した国内旅エッセイで、1984年3月にJTB出版事業部から刊行され、1986年に角川文庫に入っている。これはさ、いま読むと何も語るところがないんだ(笑)。困っちゃうんだよ何か思い出話ないかなあ。
椎名これはね、担当者が若い未婚女性で、取材にいくのは一緒なんだよ。だから、はめを外せないってのがあったと思う。
目黒そういうことも実際にはあったかもしれないけど、その担当者の責任じゃなくて、こういう国内旅エッセイが椎名に向いてないってことだと思う。あやしい探検隊でどこかの島に行くのならいいけど、だって渋谷スペイン通りとか、飛騨高山とか、札幌のキャバレーとかだぜ。椎名が行かなくてもいいよね。そういうところへ椎名が行くことの無理が出てるような気がする。
椎名あと、どこへ行ってるの?
目黒八丈島はいいんだけどね。あと千葉のダム湖も野田さんがいたころだからこれもいいけど、江ノ島とか倉敷とか神戸異人館。椎名が行かなくてもいいだろ?
椎名正直、何を書いたかまったく覚えていない。
目黒椎名の個性が生きてないし、行くのはそれなりに楽しいだろうけど、本としては特性がないよね。
椎名ようするに、そこへ行きたいという強烈な思いもなく、仕事として旅に出たということだろうな。そういう役割としての旅はつまらないってことだ。
目黒このころは沢野が何度も一緒に行ってるね。
椎名そうか。
目黒椎名が電話してね、どこそこに行くぞって言うと、ぼくもいくって付いてくるの(笑)。あいつ、まだサラリーマンのころなのによく何度も休めたよなあ。
椎名そうだなあ。
目黒この本のいちばん冒頭に収録されているのは「美女同伴逆上キリキリ温泉旅」というエッセイで、上田に行くんだけど、おれが出てくるんだ。
「よし、オレも行くぞ」とめったに明るい眼になったことのない本の雑誌の青年社長、目黒考二が二年半ぶりに目を輝かせて言った。思えばみんな暗い青春時代を歩んできたオジサンたちなのであった。
ここを読んで思い出したんだけど、椎名が上田で講演があって、その夜に温泉に泊まって帰ってくるという一泊旅におれ、そういえば行ったことがあるって。
椎名なんで来たのかなあ(笑)。
目黒上田でそばを食べたことを覚えている。椎名の講演旅に付いていったと思ってたけど、あれはるるぶの仕事でもあったんだ。
椎名両方を兼ねたんだろうな。
目黒沢野もPちゃんもいたよ。それに女性編集者が数人。
椎名タイトルは気にいってるんだ。
目黒書名としてはいいよ。こういう旅エッセイはその後やってる?
椎名目的のある旅はやってるけど、こういう目的もなくうろつくってのはやってないなあ。
目黒目的がない旅の場合でも、ヘンなやつが一緒だったりすると面白いんだけどね。
椎名それがあやしい探検隊だ。
目黒そうだね。
椎名おれがプロになって数年のころか。
目黒この1984年ってすごいんだよ。2月に『インドでわしも考えた』、同月に『赤眼評論』、3月にこの『日本最末端新人紀行』、同月に『風景進化論』、5月に『あやしい探検隊 北へ』、7月に『蚊』、同月に『ネックレス・アイランド』、9月に『むははは日記』、10月に『イスタンブールでなまず釣り』と立て続けに本が出ている。
椎名へーっ、今みたい(笑)。
目黒いいねそれ(笑)。
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