『インドでわしも考えた』

目黒ええと、次は『インドでわしも考えた』ですね。1984年に小学館から刊行されて、1988年に集英社文庫に入っている。これも週刊ポストに連載したものだね。これは椎名のほうからプレゼンしたの? インドに行きたいって。

椎名おれが言いだしたな。メキシコの帰りに、次はどうするって話が出て、インドだなあって。

目黒メキシコの旅と中国の旅紀行が面白かったのと同じ意味でこれも面白い。つまり椎名の好奇心が全開なんだ。ただね、ちょっとわからないのは、メキシコはプロレスへの興味だし、中国シルクロードはずっと以前から椎名が関心を抱いていた地域だし、この二つはわかるんだよ。でもインドって、なんとなく椎名のイメージに合わない。どうして行きたかったの?

椎名インド人は朝も昼も夜もカレーを食べているって言うだろ? 本当にそうなのか確かめたいっていうのと、空中浮遊する人が本当にいるなら会ってみたいという子供じみた動機だね。

目黒でも空中浮遊する人とは会えなかったよね?

椎名残念だな(笑)。

目黒これね、文庫版の解説を妹尾河童さんが書いているんだけど、これが面白いんだ。その冒頭にね、インド通を自称する人が本書を読むと腰を抜かすだろうって。どうしてかっていうと、インドを重々しく語る人々がいうところの「瞑想」も「神秘」も「幽玄」も「哲学的思想」もまったく見当たらないと(笑)。

椎名なるほどな(笑)。

目黒本質を突いてるよね。たしかに、「瞑想」や「神秘」や「幽玄」や「哲学的思想」を語る本なら他にたくさんあるんだから、もういいんだよね。そうでないから新鮮だったということでしょ。

椎名哲学的思想なんて書けないし(笑)。

目黒ヤマコーさんの写真がふんだんにはいっているのもいいね。『地球どこでも不思議旅』の文庫には写真が1枚も入ってないんだよ。だから、ちょっと物足りない。その点、この『インドでわしも考えた』の文庫にはカラー写真がこれでもかこれでもかと入っているから、当時椎名が歩いたインドの町がどういうところか、とても臨場感たっぷりに伝わってくる。

椎名『地球どこでも不思議旅』の文庫に写真が1枚も入ってないの?

目黒うん。

椎名単行本には写真も入っていたけどな。

目黒まあ、なにか事情があったんだろうけどね。ところで、インドはこのあとも行ってるの?

椎名行ってないな。

目黒中国はそのあとも何回も行ってるのに、インドに行ってないというのは、椎名の興味は中国のほうにあったということかな。

椎名中国は楼蘭とかシルクロードとか、いろんな方面にいくときの拠点みたいなところだからね。

目黒週刊ポストにはこのあとも連載した?

椎名『シベリア追跡』。

目黒あれがそうか? それが最後?

椎名そうだなあ。Pちゃんが異動しちゃったんじゃないか。

目黒いろいろ問題はあったけど(笑)、週刊ポストに連載できたのはPちゃんのおかげであると。

椎名定年で辞める直前、「本の窓」の編集長になっただろ?

目黒何か書かないかってオレ、連絡もらったなあ。

椎名お前、書いたの?

目黒いや、まだ準備が整っていなかったんで。

椎名おれはPちゃんとミャンマーに行ったよ。

目黒それは本になった?

椎名うん。

目黒あったなあ、そういう本。

椎名それがPちゃんと作った最後の本だ。考えてみれば、いい編集者だったな(笑)。

目黒自分が最後に編集長になった雑誌に、連載させるなんて泣かせる話だよ。もう一度一緒に仕事をしようなんて。

椎名それでミャンマーまで出かける作家もなかなかいないだろ?(笑)。

目黒いいコンビだよ(笑)。

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