『地球どこでも不思議旅』

目黒それでは『地球どこでも不思議旅』にいきます。旅紀行ではこれが第1作です。中身は、メキシコと中国シルクロード、それに京都。なんだかばらばらなんだけど、発表誌が違うんだね。メキシコと中国は週刊ポストで、京都がるるぶ。京都だけではなくて出雲とかるるぶの連載では日本各地に行っている。でも、残念ながらこの京都編は今読むとつまらないね(笑)。メキシコと中国は椎名が初めてだから、好奇心が全開で、いま読むと面白いけど。

椎名メキシコは会社をやめて最初の旅行だったな。

目黒どこかの雑誌に、椎名が海パン姿で立っていてさ、初めての旅行で開放感たっぷりだと、東京にいるやつらを思うとざまあみろと思ったって写真キャプションがあったんだよ。あれがメキシコに行ったときじゃないかなあ。

椎名アカプルコの海だな。

目黒あのときさ、意外だったんだよ。オレからすれば椎名は会社にいるときも颯爽としてたし、楽しく仕事してるものだとばかり考えていたから、会社を辞めて開放感を感じるというのが意外だった。

椎名そりゃサラリーマンだからいろいろあるよ。それに初めての南米だからね。日本と全然違うから。Pちゃん(当時の週刊ポストのデスク、高橋攻氏。週刊ポストの高橋氏なので、P高橋と椎名が命名し、それが略されて椎名の周囲では「Pちゃん」と呼んでいた)が付き添い編集者で、ずっと一緒に行ったなあ。

目黒Pちゃんは何を読んで椎名のところに依頼しにきたの?

椎名初期のものを全部読んでくれてたよ。

目黒あの人、活字好きだからね。

椎名週刊ポストの連載は、途中からカメラのヤマコーが加わって、ずっと3人旅。

目黒写真家の山本皓一さんだね。連載は最初から海外旅の依頼だったの?

椎名うん。おれ、シルクロードに行きたかったから、渡りに船だった。というのは当時、シルクロードは個人旅行は認められていなかったから。まだPちゃんもくどくなかったし(笑)。彼はお喋りだからいろいろ話しかけてくるんだけど、オレ、全然聞いていなかった(笑)。ヤマコーさんが聞いてたなあ。

目黒それ、活字にしていいのかよ(笑)。

椎名いいよ(笑)。ヤマコーさんは主語がないしな(笑)。

目黒ちょっと待って。主語がないって、どういうこと?

椎名だから、どこそこの中村さんが何々をしたっていうのが普通だろ?

目黒いきなり、あのスーツはないよなあって始まるってことか。

椎名しばらく聞いていて、それ誰って聞くと、中村さんって言うのさ(笑)。いまだにその癖、直ってないぜ(笑)。

目黒Pちゃんの特徴は?

椎名Pちゃんは沢野とは違う意味でわがままだね(笑)。

目黒どういうふうに?

椎名自分がなんでも基準なんだよ。椎名さん足の大きさ幾つって聞くんだよ。で、26半って答えると大きいねえって言うのさ。自分が25だから(笑)。

目黒それ、わがままって言わないだろ。わがままっていうのは沢野みたいに他人の言うことをまったく聞かずに、自分の言いたいことだけを喋るやつのことだよ(笑)。

椎名いや本質的にわがままだよ。

目黒でも編集者がわがままじゃ困るでしょ? それなりに気をつかっていると思うなあ。その気の使い方がちょっとズレているだけじゃないのかなあ。

椎名もう30年も付き合っているんだから、本質的な性格はわかるよ。

目黒本当にイヤなやつなら30年も付き合わないよね。

椎名いまでも付き合っているからなあ。

目黒このメキシコ旅の思い出って何かある?

椎名ルチャリブレがまだ日本であまり知られていなかったころだからね。それが面白かった。あるとき楽屋にいたら、お巡りさんがすごい勢いで入ってきてさ、何かあったのかと思ったら、裸になって覆面つけてリングに出ていった(笑)。

目黒アルバイトでプロレスをやってたんだ。その話、この本に書いてないぜ。

椎名面白い話がいっぱいあったから、書ききれなかったんだな。

目黒もったいないよね。そうなんだ、メキシコ旅の項は面白いんだけど、唯一の不満は駆け足なんだよ。このメキシコだけで一冊になるよね。

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