『哀愁の町に霧が降るのだ』その3
目黒脇役の中にも印象的な人物が何人かいるんだけど、高校時代の柔道部の吉野先輩はカッコいいね。
椎名いや、ホントにカッコよかった。
目黒「のちに拓大柔道部に進んだ」と書いてあるからモデルがいるんだ。
椎名会いたいなあ。
目黒その後会ったことないの?
椎名こないだ高校の50周年記念なんとかで呼ばれて講演をしたんだよ。同窓会の会長が柔道部の時田。
目黒吉野先輩と同学年の人だ。
椎名そうそう。
目黒吉野先輩がやっつけちゃうんだよね。
椎名なにそれ?
目黒練習試合でやっつけちゃうシーンがあるよ。吉野が時田を撥ね飛ばしてそのまま押さえ込むとき、時田の体の上で、「ひゅうひゅう」とふいごのような荒い息を吐くというシーンがとても印象的だった。
椎名その時田が同窓会の会長になっていて、オレが呼ばれたんだ。
目黒この本の中ではどちらかといえば、時田は悪役だよね。
椎名いや、悪いやつじゃないよ。いいやつだよ。
目黒ふーん。
椎名で、吉野にも会いたいなあって言ったら、連絡が取れないって言うんだ。
目黒どうしたの?
椎名大学を出てから会社をおこして社長になったらしいんだけど、それがつぶれて、いまは連絡が取れないって。
目黒上田凱陸くんが高校一年のときに転校してきたってことも知らなかった。最初から同級生なんだと思ってた。彼ともその後会ってないの?
椎名会ってないなあ。とにかく暗いやつなんだよ。「花の咲かない街」って小説を当時書いたんだけど、外国を舞台にしてね、これが暗い話なんだ(笑)。でも上田とは会いたいなあ。
目黒たくさんの脇役が出てくるんだけど、唐突に名前だけ出てくるから、どういう関係なのかわからない。たとえば、イサオじゃない高橋が出てくるよね。
椎名高橋ハジメ。
目黒どういう関係なの?
椎名木村の高校の同級生だな。彼とはこないだ会ったよ。
目黒あっ、そうなの。
椎名なにか老人会で話をしてくれって。
目黒会っている人もいるんだ。
椎名そうだ、あれは面白かったなあ。
目黒なに?
椎名久しぶりに克美荘を訪ねたときなんだけど、この話は書かなかったかなあ。部屋の隅にボロが置いてあるんだ。何だろうって近づいたら、ボロじゃなくて斎藤だった(笑)。つまりボロっちいものを着て寝てたんだな。
目黒斎藤って?
椎名イサオの高校の同級生。イサオは電気関係の高校に行ったから、オレたちは「電気の斎藤」って呼んでた。おれたちが出ていったあとは、イサオが斎藤のような友達を呼んで半年くらい暮らしたんだよ。
目黒その「電気の斎藤」は椎名も知ってたの?
椎名いつも遊びに来てたからね。
目黒克美荘に住んでいたのはきみたち四人だけど、そうやってきみたちの友達がしょっちゅう出入りしてたんだ。いったい何人くらい出入りしてたの?
椎名10人くらいかなあ。
目黒その出会いの場面を全部書いてたら、たしかにしつこいか。
椎名だろ。
目黒でも、あまりに書かなすぎるよね。高橋ハジメが木村晋介の高校の同級生って、いま初めて知ったもの。
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