『かつおぶしの時代なのだ』
目黒それでは1981年4月刊の『かつおぶしの時代なのだ』にいきましょう。椎名の4冊目です。こちらは「ブルータス」と「翻訳の世界」の連載を中心に、他誌に書いたものを集めて一冊にしたもので、『気分はだほだぼソース』同様に、まあひどくはないけれど、今読むと特に感想はないなあ。
椎名「ブルータス」連載のものは、沢野のメジャー誌デビューだよ。誰かイラストレイターで組みたい人はいますかと言われて、沢野の名前をあげた。
目黒『わしらは怪しい探検隊』の表紙とカットは沢野だったけど、メジャー誌デビューはこのときであると。
椎名この「ブルータス」の連載は「毒だみ光線」というものだったけど。
目黒それは何ページ?
椎名見開き。でも大判だから10枚は入る。沢野と本格的に組んだ初めての仕事だよ。ここからあいつとのコンビが始まった。
目黒この「毒だみ光線」は、椎名にとってもメジャー誌初連載?
椎名「ナンバー」の連載がほぼ同じころ始まってる。
目黒それが『場外乱闘はこれからだ』。
椎名そっちは取材ものだから、結構大変だった。
目黒「ブルータス」のほうは?
椎名何でも好きなことを書いていいって言うんだ。
目黒1本ずつのタイトルはいいんだよね。たとえば「不倫の人妻は餃子のラー油と白桔梗の花が嫌いです、と言った」とか、「スケスケドレスのアケミさんはなぜチャーシュウメンを食べるのか」とか、「憎しみのタクシーが愛に変わるときおれは熱い吐息でウッフンと言った」とかね、なんだか無性に読みたくなる。これは全部、ブルータスに連載したぶんで、当時は衝撃的だったんだろうけど、いまになってみるとタイトルの良さは理解できても、その他はちょっと--。
椎名読み返したことないなあ。
目黒発売は1981年4月で、そのときにはもう椎名は会社をやめてフリーになっているけど、書いていたのは半分以上まだサラリーマンのころだね。
椎名そうか。
目黒ところで、「ブルータス」はわかるんだけど、「翻訳の世界」に連載したっていうのは、どうして? いま考えると、あれって思うよね。
椎名編集部にオレのファンがいたんじゃないかなあ。ありがたいよな。
目黒『かつおぶしの時代なのだ』という書名は、ブルータスに書いた「かつおぶしとダイコンオロシの極致的状況は素晴らしい」というエッセイから取ったタイトルなんだけど、これは誰がつけたの?
椎名それはオレがつけた。
目黒『気分はだぼだぼソース』もいいタイトルだったけど、この『かつおぶしの時代なのだ』もいいね。椎名の初期エッセイ2冊のタイトルが『気分はだぼだぼソース』と『かつおぶしの時代なのだ』というのは、椎名誠という作家のイメージを作ったところがあると思う。食にうるさい、しかしA級グルメではけっしてない、さらに暴力的であるという幾つかのキーワードがここにあるから。それがいいことなのか悪いことだったのかはわからないけどね(笑)。
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