『わしらは怪しい探険隊』その1

目黒『さらば国分寺書店のオババ』に続いて刊行したのが、『わしらは怪しい探険隊』。1980年3月の刊行です。これは「オババ」が出てから依頼を受けたの?

椎名どうだったかなあ。

目黒「オババ」を出す前に依頼がきたのか、その後に依頼がきたのか、どちらかは覚えてないと。3月刊行というところから逆算すると、書いたのは正月休みだね。「オババ」の項で「正月休みに書いた」って語っているのは、これのことなんじゃないのかなあ。

椎名そうかもしれないな。おれがはっきり覚えているのは、250枚書いた時点で、北宋社の美人編集者高橋さんに読んでもらったんだ。

目黒本当はもっと書こうと思った、と増刊号の「自著を語る」で言ってるねえ。250枚じゃなくて、もっと長くしようと思ったと。

椎名そうなんだよ。でも、高橋さんがこれでいいって。

目黒ネタはたくさんあるから、もっと書けるよな。

椎名そうなんだよ。

目黒『自走式漂流記』(新潮文庫)に、「怪しい探険隊・全記録」というのが載っていて、それを見ると、1968年の琵琶湖から始まって、69年琵琶湖、70年三宅島、71年房総、72年式根島、73年陸前江島、74年神島、75年粟島、76年粟島と行っていて、その後も77年〜80年八丈島、81年館山、82年猪苗代湖、83年粟島、84年亀山湖、瓢箪島、猿島、イソモシリ島、竹生島と年譜に載っているんだけど、初期探険隊は76年の粟島で終わっていたと思う。というのは77年からの八丈島は後年の旅とは違ってまだ遊び100%だったけど全部民宿泊まりですごく楽だったし、81年の粟島や83年の館山は、テレビや雑誌の取材のためのキャンプで、「怪しい探険隊」の活動とはわけて記録すべきだと思う。まあ、そこまで厳密に考える必要もないんだけどね。

椎名お前、よく覚えてるなあ。

目黒違うよ、この『自走式漂流記』に載ってるんだ。いい本だねえこれ。とても参考になる(笑)。でね、69年琵琶湖から76年粟島までの活動が「怪しい探険隊」の正式活動だったとしても、この間8回も旅に行ってるんだよ。ネタはまだまだある。たとえば、式根島の「山田事件」ってあっただろ。夜のキャンプ場で「山田ーッ」と誰かが叫んだら、そこら中で「山田ーッ」の叫び声が飛び交った事件。

椎名それ、どこかで書いたなあ。

目黒『わしらは怪しい探険隊』には書いてないよ。

椎名じゃあ、別の本だ。

目黒「あやしい探検隊」シリーズは、この『わしらは怪しい探険隊』以外に全部で13冊出しているんだけど、初期東ケト会、後期東ケト会、いやはや隊と、メンバーが異なっているんで、「あやしい探検隊」シリーズとはいっても、作品のトーンはかなり違っている。オレはやっぱりいちばん最初の、この『わしらは怪しい探険隊』が好きだな。これ、再読したんだけど、傑作だよ。椎名は再読してないだろ?

椎名読まないねえ。

目黒『さらば国分寺書店のオババ』は、いま読むとどうして当時衝撃的だったのかわからないって前回言ったけど、この『わしらは怪しい探険隊』はわかる。これは各社が飛んでくるよ。初期の傑作だと思う。

椎名ほお。

目黒何がいいかって、構成がいいんだよ。69年琵琶湖から76年粟島まで、たくさんネタがあるはずなのに、中心を神島に絞っているんだ。そこに回想とか飛んだり跳ねたりして他の年の遠征話を入れている。こういうのは編年体でやる方法もあるんだけど、神島を中心にするという手法がここでは活きている。おれは、中心にするなら三宅島か式根島だろうって勝手に思っていたんで意表をつかれた。残念なのは、もっと読みたかったのに、初期東ケト会の活動報告がこれしか書かなかったこと。書いてないよね、この頃の話を他には?

椎名書いてない。

目黒『わしらは怪しい探険隊』の続編を書くべきだったねえ。

椎名北宋社の高橋さんから続編を書くように言われた記憶もあるなあ。でも突然忙しくなっちゃったから、書いている暇がなかった。

目黒もったいないなあ。

椎名いまとなってはもう覚えてないしな。

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