『本の夢 本のちから』
目黒次は『本の夢 本のちから』です。2018年9月に、新日本出版社から本になったんですが、これには驚いた。近年、こんなに驚いたこともない。
椎名何が?
目黒これはね、岩波新書の4冊、つまり『活字のサーカス』『活字博物誌』『活字の海に寝ころんで』『活字たんけん隊』から二十二編、本の雑誌から十一編を取って、再編集した本なんですよ。目からウロコだね。
椎名どうしてそんなに驚くんだよ。
目黒最近の椎名本は、このインタビューでも度々指摘しているけど、昔書いたことと同じ話が結構ある。ヤクーツクの居住霧とか傾く家、またはロシアの飛行機の立ち乗り客とか、昔椎名が現地で目撃してきた光景の話を思い出して書くんですが、それらは当然昔の本に出ている。だからずっと椎名の本を読んできた読者は、この話は以前に読んだな、と思い出しちゃうんだ。でもね、岩波新書のいわゆる「活字四部作」から二十二編、本の雑誌に書いた本の話を十一編(これも本の雑誌からのちに出た本にすべて収録ずみ)をそのまま一冊の本にしちゃうという発想はすごいよ。新しく書いたエッセイに昔のネタが紛れ込むって話じゃないんだ。新しく書かないの。昔書いたものをあっちこっちから集めてきて再構成するだけ。それで一冊の本になっちゃうんだから、いいよ。
椎名お前、それ、褒めてる?
目黒老人作家のこれからの生きる道はこれだよ、と思った。もちろんこれは、岩波新書が絶版だから出来ることだよね。
椎名もちろん岩波の了承はもらった。
目黒でもさ、岩波新書が4冊ともに絶版なら、そのままどこかの文庫に入れればよかったんじゃないかなあ、という気もする。わざわざ再構成するのも結構な手間だよ。
椎名いや、もう1冊、再構成して出せばそれでいいよ。
目黒ま、いいか。それでは例によって細かなことを聞いていきます。最初のほうに、小松左京の短編の話が出てきて、このタイトルがわからないって出てくるんだけど、本の刊行後に反応はなかったの? そのタイトルはこれですよとか。
椎名あったなあ。でもそのとき控えなかったから、忘れた。
目黒たしかに面白そうだよね。おれも読んだことがあるような気がする。江戸時代の風俗そのままで、科学が発達しちゃった二十世紀末の東京を舞台にした短編。
椎名機械仕掛けで動く「ロボット駕籠」が町を走っていたりしてな。
目黒どういうオチなんだろう。それも知りたい。
椎名もう一度読みたいんだよ。
目黒それと、チベット人はかつおぶしの匂いがダメというのが印象的だった。それ、椎名の家にいたチベット人だけのことじゃないのね。
椎名チベット人はだいたいダメみたいだな。彼らはまず魚を食わないからね、川魚も。
目黒かつおぶしの匂いが生臭いのかな。
椎名おれたちだってよその国に行って、その国の香辛料がダメなことってあるだろ。それと同じだよ。
目黒でもかつおぶしがダメだと日本の蕎麦も食えないね。かつおぶしでダシを取ってるから。
椎名そうだな。
目黒『私は魔境に生きた』の話が出てくるけど、これは本の雑誌に載った原稿だね。これは覚えている。
椎名ヒクイドリと戦うシーンは強烈だったな。大きくて恐竜みたいなもんだからね、刃物のような鉤爪で襲ってくるんだ。
目黒あとは、リンさんのガンが直った話。あやしい探検隊のファンにはお馴染みの林政明さんがガンになって、ところが奥さんの作ったスムージーで治ってしまったと。その体験を書いた奥さんの本、林恵子『がんが消えた奇跡のスムージーと毎日つづけたこと』という本を紹介しているんだけど、これ、本当に治ったの?
椎名本当だよ。奥さんが一所懸命にいろんな植物を試したんだろうな。
(この対談は2019年11月25日に行われました)
<<<『旅先のオバケ』 『われは歌えどもやぶれかぶれ』>>>
書籍情報はこちら » 本の夢 本のちから