『旅先のオバケ』
目黒『旅先のオバケ』です。東京スポーツに連載している「風雲ねじれ旅 旅の宿」をまとめたエッセイ集で、2015年6月〜2016年10月まで連載していた分ですね。集英社から刊行されたのは、2018年6月。この東京スポーツの連載は長いよね。
椎名10年くらいかなあ。
目黒ええと、調べました。始まったのが2012年4月からだから、約8年か。
椎名そんなものだな。
目黒この東京スポーツの連載から何冊も本になっているよね。
椎名いちばん最初は、糞便録じゃなかったかなあ。
目黒一冊分がたまるとテーマをかえていくんだ。プロレスで一冊書いたこともあったよね。テーマは誰が決めるの?
椎名おれ。まったく自由に書かせてくれているんだ。
目黒じゃあ、そろそろ1冊になるから、テーマをこのへんで変えようと椎名が決めるってこと?
椎名厳密に考えているわけじゃないけど、ちょうど1冊分がたまるころにオレが同じテーマに飽きてくるから、ちょうどいいんだ。
目黒まとまると全部集英社から出るの?
椎名そういうわけじゃないけど。
目黒で、これは旅の宿がテーマ。これは面白かった。というのは、テーマを絞っているからだね。旅といっても、宿の話だけ。椎名は世界各地に行っているから、テーマを極端に絞っても一冊分書けるから、こういうふうにしたほうがいいね。ビールの話に限定するとか。
椎名意識しなかったなあ。
目黒何を言っているの。最初に書いてますよ。
旅の多い人生だ。世界各地、日本各地。ホテルや旅館などの恵まれた寝場所だけでなく原野やジャングルなどでも寝なければならないときがけっこうある。これからしばらくそういう「旅の宿」のよもやま話を思い出すまま語っていきたい。
ほらね。最初から意図的ですよ。
椎名そうかあ。
目黒だから版元も「地球を駆け巡るシーナが語る、〔旅の宿〕エッセイ集」と帯に書いている。
椎名ふーん。
目黒まあ、何度も読んできたような話も例によって出てくるんだけど。たとえば、ロシアの飛行機には立ち乗り客がいるとか、ヤクーツクの居住霧とか、印象的なことはこちらも覚えているから、この話は前に読んだなとわかっちゃう。ただし、初めて読む話も多い。
椎名なあに?
目黒パリのワインの当たり屋。
椎名ああ、あれな。
目黒安いワインを抱えた女が街の角で待っている。そして角からいきなり飛び出して観光客にあたってワインをわざと落とす。で、高級ワインがあんたのせいで割れてしまったと。それで金をせしめる。
椎名油断できないんだよ。
目黒あとは面白かったと言ってはいけないんだけど、おいしい鳥は絶滅するという話。硫黄島にいくといたるところに孔雀がいて、なんでこんなに孔雀が多いんだと現地の人に尋ねる、というのが発端。あとの展開を説明して。
椎名ずっと昔にリゾートホテルを建設したときに観光資源としてホロホロ鳥と孔雀をそれぞれ二十五つがい島に持ってきたんだけど、ホテルが営業を中止しちゃったから、ホロホロ鳥と孔雀は野生化して繁殖していったんだね。
目黒それで椎名が質問するんだ。孔雀はたくさん見るけど、ホロホロ鳥はまったく見ない。どこへ行ったんですかって。
椎名すると現地の人が答えるの。おいしい鳥は絶滅するんです。
目黒孔雀を食べたやつもいたんだね。で、まずかったと。
椎名まずくて良かったよなあ。
(この対談は2019年11月25日に行われました)
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