『おっちゃん山』

目黒 次は『おっちゃん山』です。絵本ですね。新日本出版社から2018年5月に刊行されたものですが、これまで椎名が書いてきた絵本をまず表にしました。

椎名誠 絵本や童話その他
書名 絵(写真) 出版社 刊行年月日
『なつのしっぽ』 沢野ひとし 講談社 1990年 4月
『ドス・アギラス号の冒険』 たむらしげる リプロポート
偕成社
1991年11月
2002年10月
『3わのアヒル』 垂見健吾 講談社 1994年10月
『アメンボ号の冒険』 松岡達英 講談社 1999年 8月
『めだかさんたろう』 村上康成 講談社 2000年 8月
『冒険にでよう』 岩波書店 2005年 6月
『エコノザウルス カウントダウン』 本田亮 小学館 2008年 1月
『めしもり山のまねっこ木』 及川賢治 国書刊行会 2009年 1月
『みんな元氣だ わたしが見てきた野生動物』 和田誠 文化出版局 2010年12月
『おっちゃん山』 塚本やすし 新日本出版社 2018年 5月

純粋な絵本以外のものも入っているんですが、30年間にちょうど10冊。

椎名 そんなにある?

目黒 たとえば『冒険にでよう』は、岩波ジュニア新書の一冊で、これまで世界各地に行ってきた著者の、記憶の中の冒険を描いたエッセイだから、純粋な絵本とは言えないんですが、「絵本童話その他」として「椎名誠旅する文学館」では分類しています。

椎名 ふーん。

目黒 一度椎名に聞きたかったんだけど、絵本を書くときにまず何を考えるのか。

椎名 なにって?

目黒 小説を書くときは、椎名はプロットを作らないよね。いつもいきなり書きはじめるでしょ。

椎名 そうだな。

目黒 だから、あとが続かなくなって途中でやめてしまったものも幾つかある(笑)。

椎名 あるなあ。

目黒 でも絵本の場合は文章が短いから、そのやりかたでは無理だよね。最初に何を書くか決めておかないとダメでしょ。たとえば、この『おっちゃん山』はどうなの? 覚えている?

椎名 これは、最初に講談社の人に頼まれたんだ。で、プロットを書いて池林房で渡したんだよ。ところがそのあとは何も言ってこない。

目黒 あらら。

椎名 そしたら、最初から組む予定だった塚本やすしさんが「椎名さん、あの話はどうなっているんですか」って。おれが事情を話したら塚本さんが調べてくれて、担当者が別の部署に移動しちゃったことが判明した。で、塚本さんが新日本出版社に話をしてくれて刊行と。そういう経緯があった。

目黒 出版の経緯はよくわかったけど、おれが聞きたかったのは、『おっちゃん山』という話をどういうふうに考えたのか、ということなんだ。

椎名 それは以前書いた話、大きくなっちゃう話を子供向けにした。

目黒 そんなSFを書いていた?

椎名 お前が忘れているだけだよ。

目黒 ふーん。それともう一つ。画家の人にこうしてくれ、という注文はつけないの?

椎名 おれはないなあ。

目黒 ずいぶん前だけど、あるPR誌に犬のエッセイを連載したことがあるんだけど、我が家の犬の色についての記述を第1回に書かなかったんだ。

椎名 色?

目黒 うん。我が家の犬は真っ黒だったんだけど、それを書かなかったんで、出来上がってきた雑誌を見たら、白い犬になっていた。今さら黒いとは書けないんで、その後はいっさい色については触れなかった(笑)。だから、そういうことが起きないように、最初に何か言うものなのかなって。

椎名 おれから注文をつけたことはないけど、この『おっちゃん山』のときに、デロデロ虫っていうのは、どんな感じですかとは聞かれたな。

目黒 最初に出てくる虫だ。たしかにわからないよね、デロデロ虫って言われても。

椎名 だから、むかでみたいなやつですよね、とは言った記憶がある。

目黒 あとね、以前に鯨に飲み込まれる絵本があったでしょ。飲み込まれたままで終わるの、救いがないんだよ。この『おっちゃん山』も、おっちゃんが大きくなって山になると、涙を流して、それが川になる。すると、子供たちがその川をまたいでいくってところで終わり。なんだか悲しい話だよね。これは意図的なの? すべての絵本がこんな悲しい終わり方をするわけじゃないけど。

椎名 余韻があるだろ。

目黒 まあ、そういうことにしておきましょう。

(この対談は2019年11月25日に行われました)

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