『家族のあしあと』

目黒次は『家族のあしあと』です。「すばる」の2015年4月号から2017年2月号まで連載して、2017年7月に集英社から刊行と。これはてっきり『岳物語』の系譜かと思ったら、その前史だと帯にある。あてとがきに作者が意図を書いているので、まずはそれを引用します。

 
 
 ここでハナシはまるで変わるがリドリー・スコットが映画「エイリアン」を監督したとき、それ一作のつもりだったろう、と思うのだ。しかしヒットしてあとから別の監督でエイリアンシリーズがたくさん作られた。あまりにいろんなストーリーが出てきてエイリアンが果して最後どうなってしまったかわからなくなるくらいの濫造ぶりだった。そしてあるとき最初にエイリアンを監督したリドリー・スコットが満を持して「プロメテウス」という映画を作った。これはエイリアン創世の話だった。ぼくはこれにヒントを貰った。『岳物語』の岳君ぐらいの年齢のときが自分にもあったわけだ。その自分はいったいどういう時代をどう生きたのだろうか。そのあたりのことを客観的に見つめなおしてみたい。
 
 まさか、エイリアンと『家族のあしあと』が繋がるとは思ってもいなかった。

 

椎名(笑)

目黒ようするに自分の幼いころの話を書く、というんだけど、いままでに『犬の系譜』とか書いてきているから、結構知っている話が多い。それでも面白かったのは、長椅子が傾いていくくだり。あれは何度読んでも面白いねえ。エッセイでも書いてるから、この小説でもう四度目くらいなんだけど、きっとあれが出てくるぞと思いながら読んで、やっぱり出てきたって、また笑っちゃった(笑)。

椎名おじさんと兄貴の作った長椅子がゆっくりと傾いていくのな(笑)。素人の作った椅子だから、筋交いがないんだよ。本来なら斜めに交差させて強度を保たなければならないのに、それがないから重みに耐えかねてゆっくりと傾いていく(笑)。

目黒全然慌てず、騒がないのがいいよね。呆然としたまま斜めに沈んでいくの(笑)。

椎名おれは向かいにいたから、なにが起きたのかわからなかった(笑)。

目黒この本の中に、酒々井にいたころの話が出てくるんだけど、その後、酒々井に行ったことはある?

椎名5〜6年前かなあ、講演で呼ばれた。おれが酒々井にいたころは、向かいに住んでいた消防署の奥さんに「木の上から小便をするものじゃありません」ってよく怒られていたなあ。

目黒そのころの友達はいるの?

椎名おれの友達じゃなくて、兄貴の友達が4〜5人、講演を聞きにきてくれたよ。で、俺の一家が酒々井にいたころの地図を書いてきてくれた。

目黒いい話だねえ。続編を書くだろうからその地図をいつか載せたほうがいいよ。

椎名そうか、載せれば良かったなあ。もう続編を書いちゃったんだ。いずれ本になるよ。でも、それで終わらせる予定だったのに終わらなかったから、続々編を書かなきゃならない。そのときに載せようか。

目黒酒々井のアウトレット・モールには行かなかった?

椎名なんだそれ?

目黒おれがいちばん最初に「酒々井」という名前を知ったのは、アウトレット・モールが出来たときで、そのあとで椎名が幼いときに住んでいたことを知る、という順番なんだよ。

椎名だから何?

目黒まあ、いいや。ええと、あとは犬の名前をパチと書いて作文を提出したら先生からポチと直された、という話が出てくる。お父さんの仕事が公認会計士で、ソロバンが商売道具だから「パチ」と名付けたのに直されたんだね。その作文を書いたのが、椎名のお姉さんとここでは書かれているんだけど、これまでの本では、その作文、椎名が書いたことになっている。どちらが正しいの?

椎名えーっ、おれがそんなこと書いたの?

目黒いや、いいんだよ。なにも正確に書かなくても、誰に迷惑をかけるものでもないんだからね。たとえば、椎名がこれまで書いてきた『銀座のカラス』『本の雑誌血風録』『新宿熱風どかどか団』というシリーズには事実は異なるところが、それはもう山のようにある。でも、おれはそれでもいいと思っている。それが椎名の見てきた歴史なら、それでもかまわない。椎名の初監督作品「ガクの冒険」の制作年度は何年か、ということはきっちり事実じゃなくちゃ困るんだけど、それとは別だからね。チンチロリンのルールで親の総取りは4の目と書かれるのも困るんだけどね(笑)。

椎名作文を書いたのはオレじゃないなあ。姉さんだな。

目黒わかりました。

(この対談は2019年10月21日に行われました)

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