『ノミのジャンプと銀河系』
目黒それでは、『ノミのジャンプと銀河系』です。2017年6月に新潮選書の1冊として刊行。もともとは小説新潮の2016年4月号から2017年2月号まで連載された「銀河系の針の穴」をまとめたもの。あ、そうなの、いま気がついた。連載時のタイトルは違っていたんだ。
椎名そう、単行本の時に変えたんだ。
目黒この本でいちばん面白かったのは、あらゆる動物を100m競走させたら、どの動物が何秒で100mを走るのか、というランキング。チーターは100mを3・2秒で走って、ぶっち切りの1位なんだけど、驚いたのはサイとカバだよね。サイがなんと7・8秒、カバが8秒。こんなに早いとは知らなかった。油断していたら追いつかれて食べられちゃうよ。
椎名早いんだよ、あいつら。
目黒ライオンが6・2秒で、クマが6・4秒と早いのは聞いていたけど、まさかサイとカバがこんなに駿足だとは。
椎名この本の中に、睡眠時間のランキングは入っていた?
目黒動物は何時間眠るかっていうの? なかったなあ。
椎名そうか、じゃあ違う本か。こういうランキングは、子供向きの本からピックアップして作るんだぜ。
目黒あ、なるほどね。それとこの本の中にモンゴルの馬は体高が130センチで小型馬だ、というくだりが出てくるんだけど、日本の馬がポニーのように小さかったってことを去年までオレ、知らなかったんだ。
椎名あ、そう?
目黒あのときはびっくりしたなあ。で、あわてて調べたんだけど、明治になってこれでは外国との戦いに勝てないっていうんで、大型馬と掛け合わせて徐々に大きくしたんだね。
椎名そうそう。
目黒だから戦国時代の馬はみんな小さかった。つまりよく映画に出てくる合戦の場面は全部嘘。大きな馬に武士が颯爽とまたがって草原を疾駆して敵と戦うなんてありえない。
椎名そうだけど、まさか武士の恰好をした役者をポニーに乗せて走らせるわけにはいかないしな(笑)。
目黒日本の馬は改良に改良を重ねちゃったので、小さな在来馬がもう8種類しか残っていない。で、全部保護の対象になっている。モンゴル馬はどうなの? やっぱり改良して大きくなっちゃったの?
椎名純粋なモンゴル馬は政府が保護しているね。
目黒大型馬はいるの?
椎名いるよ、サラブレッドほどは大きくないけど。
目黒それとね、グレートバリアリーフにいくくだりで、閉所恐怖症に初めて気がついた、と書いているんですが、それまで自分がそうだとは知らなかったの? だって、小さいときに押し入れに入ったら怖かった、とかあるじゃん。
椎名押し入れは自分で開ければ出てこられるだろ。自分でどうしようもない状況に隔離されると怖いんだよ。
目黒おれ、わからないんだけど、閉所恐怖症って治るものなの? グレートバリアリーフに行ってからずいぶんたつんだけど、いまはどうなの?
椎名まだ怖いな。だから、ダイビングをやめたよ、ずいぶん前に。
目黒ダイビング?
椎名あれは閉所恐怖症の人には無理だな。しかもオレは一度流されたことがあるから。
目黒へーっ、怖いね。
椎名お前は閉所恐怖症の気はないのか。
目黒ないなあ。
椎名想像力が足りないんじゃないか(笑)。
目黒でもね、おれは2年に一度、脳ドックを受けるんだけど、MRIで診断するため、機械の中に入っていくだろ。あれ、椎名、怖くない? おれの知人で、ギュイーンと機械の中に入っていったら怖くなって暴れ出して、診断が中止になったやつがいたよ。
椎名あれは密閉されないだろ。隙間があるから大丈夫。そこを見れば外が見えるから。
目黒なるほどそうか。いや、ある年、機械の中に入っていくとき、ボタンを持たされて、何かあったらこれを押してくださいって言われたんだよ。いや、それは毎回言われることなんだけど、そのとき耳元で囁くように言ったトーンがなんだか不気味で、そんなことを言われなければ全然気にならなかったのに途端に不安になって、まあ、暴れなかったけどね、でも初めて怖いと感じた。
椎名君にも閉所恐怖症の気はあるね。
目黒そうかなあ。
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(この対談は2019年10月21日に行われました)
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