「椎名誠のベスト10」〔目黒選〕

目黒それでは、このインタビューの番外篇として「椎名誠のベスト10」を〔目黒選〕と〔著者自選〕の2回に渡ってやります。まず最初は〔目黒選〕。その10冊はこれです。


①『わしらは怪しい探検隊』北宋社1980年
②『新橋烏森口青春篇』新潮社1987年
③『アド・バード』集英社1990年
④『定本 岳物語』集英社1998年
⑤『海を見にいく』本の雑誌社1986年
⑥『パタゴニア』情報センター出版局1987年
⑦『絵本たんけん隊』クレヨンハウス2002年
⑧『あやしい探検隊 済州島乱入』角川書店2013年
⑨『ひるめしのもんだい』文藝春秋1982年
⑩『椎名誠 超常小説ベストセレクション』角川文庫2016年

ええと、『アド・バード』が入っているのに、『武装島田倉庫』と『水域』がなぜ入ってないんだと疑問を持つ方もいるかもしれないけど、長編SFは『アド・バード』に代表してもらいました。そうしなければSFだけで長編3冊、短編集3冊と、ベスト10の半分以上が埋まってしまうので。長編は『アド・バード』だけ、短編は『椎名誠 超常小説ベストセレクション』だけ。この短編集についてはあとで詳しく紹介します。

 
『新橋烏森口青春篇』も同じように代表ですね。『哀愁の町に霧が降るのだ』から始まる椎名の青春記は、このあと『銀座のカラス』や『本の雑誌風雲録』とつながっていくんだけど、私がいちばん好きなのは『新橋烏森口青春篇』なんで、これに代表してもらいました。中小企業小説としても読める傑作ですね。緒方直人が主演したNHKのテレビドラマもなかなかよかった。

 
『定本 岳物語』をあげる理由は、苦し紛れの短編が正編、続編に1編づつ入っているんだけど、それをこの定本ではカットして、とてもすっきりとまとまったから。連載時にたぶん原稿が書けなくて、外国に行ったことなどを書いて穴埋めした回だね。全体の流れを考えれば不要な回とも言えるので、カットしてよくなった。それに、この定本には岳のエッセイが載っている。そのときに彼は二十歳だったんだけど、すごくいいエッセイだ。モデルにされた息子の複雑な感情を素晴らしい文章で書いている。本当はだからこちらを文庫にしてもらいたいんだけど、もう300万部とか400万部とか売れた本なので、いまさらこれを文庫にするわけにはいかないから、それは無理だよね。でも興味のある方はぜひこちらも読んでほしい。

 
『絵本たんけん隊』にも触れておきます。本についての本、というのは岩波新書の『活字のサーカス』から始まる数冊が有名で、この『絵本たんけん隊』は埋もれた感があるけれど、これはすごいです。絵本から始まって、椎名がこれまで世界中で見てきた国や地域の出来事、風景、風習などが次から次にどんどん出てくる。その間を縫うように、椎名がこれまで読んできたさまざまな本、自然科学関係の本や動物行動学の本など、まるでおもちゃ箱を引っ繰り返すように飛び出してくる。だから絵本に関心のある人だけでなく、とにかく本が好きという人に読んでほしい。椎名のほかのすべての本が消えてもこれだけは残るのではないか、というくらいの傑作です。

 
『あやしい探検隊』を2冊入れてしまったが、2013年の「済州島乱入」はぜひとも入れたかった。この前の「北海道篇」は失敗作だったけど、これは素晴らしい。なんといっても隊員たちのレーゾンデートルを韓国語に翻訳して持っていくこと、というルールが素晴らしい。大人たちが異国を旅するだけのエッセイに躍動感が生まれているのはそのためだと思う。この10年の椎名のベスト1だまで断言してもいい。

 
写真集は『雨の匂いのする夜に』にしようかと最後まで迷った。これは書名もそのロゴも装丁もカバー写真も、すべてがいい。雨に煙っているようなカバー写真が、情感たっぷりだ。しかしここは本の雑誌社から出た写文集にしておきたい。

 
『椎名誠 超常小説ベストセレクション』角川文庫版は、2012年の柏艪社版の文庫化だが、全17篇から7篇をカットして9篇を足しているので、柏艪社版と同じなのは半分だけ。両方ともに著者自選の作品集だが、これは角川文庫版のほうが遥かにいい。名作傑作をもれなく網羅している。

というところが私の選んだ10冊ですが、感想は?

椎名バランスがいいですね(笑)。

 

※ 2016年10月に行われた『本人に訊く〈壱〉よろしく懐旧篇』出版記念トークショーより。

 

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