『本人に訊く〔壱〕 よろしく懐旧篇』

目黒ええと、『本人に訊く〔壱〕 よろしく懐旧篇』(椎名誠 旅する文学館/2016年10月刊)です。データをきちんとしておかなければならないので言っておきますが、2011年8月に「椎名誠 旅する文学館」がネット上にオープンしたとき、椎名誠の全著作を目黒が読んでその裏話を聞くというインタビューが始まり(2016年10月にとりあえず終了)、それを順次単行本にしていく第1巻がこの「よろしく懐旧篇」であると。これをテキストにしてまたインタビューするというのもへんだけど、まあ、いきましょう。まずね、単行本化に際して、足した資料がいいね。特に、椎名が作家としてデビューする前の習作を私が読んで感想を言うというくだりが最初のほうにあるんですが、その習作をいくつか本書に載せたのは実にいい。

椎名千葉市立千葉高等学校の高校新聞に載った「白い手」は、うちのスタッフが千葉高等学校の図書室から借りてきたんだ。

目黒1962年10月16日号に載っていた、っていうんだけど、よく残ってたよねえ。50年以上前だぜ。

椎名純愛小説というのかね(笑)、ちゃんと小説になっている。

目黒最大の謎は、当時喧嘩に明け暮れていた椎名に、高校新聞が小説執筆を依頼したことだよ。不思議だよな。

椎名全然覚えていないんだけど、同級生の上田凱陸君が絡んでいたのかもしれない。彼は詩を書いたり、バイオリンを弾いたりする少年で、当時は文芸部にいたから、凱陸君に依頼された可能性はあるね。

目黒この本についての感想はある?

椎名おれね、ゲラを読んで初めて知ったんだよ。

目黒何を?

椎名いや、だから、ネットに載ってるのは知ってたけど、読んだことがなかった。

目黒これが始まって5年たつんだけど、一度も読んでいなかったの?

椎名うん。

目黒読んでよお(笑)。

椎名いや、面白かったなあ。

目黒おれはね、この仕事が晩年の仕事ではいちばん好きで、そのわりに読んでるって人に会わなくて、いつだったかなあ。品川で椎名のイベントがあったときに、小学館を定年退職した高橋さんと久々に会ったら、「あれ、面白いねえ」と言ってくれたの。「あれは目黒さんじゃなくちゃ出来ないよ」って。Pちゃんはいい人だなあ(笑)って思った。でもなかなか本にならないから、椎名は嫌なのかなあって。つまり椎名にとっては自分の本の話ばかりだから宣伝になるって思うと、ネット上ではやっても本にはしたくないのかなあって思ってた。

椎名宣伝にならないだろ。だって、こんなのだめって一言で言われる本があるんだぞ(笑)。

目黒それはオーバーだろ。とにかくあれは本にはならないんだと諦めていたから、ある日突然、あれを本にするぞって椎名が言ったときは嬉しかったよ。

椎名話を戻すと、いちばんショックだったのは、ずいぶんあとだけど、おれが力をこめて書いた作品があって、文學界に書いて文藝春秋から単行本になった。あれは書いているときから、目黒はどう読むかなあってかなり意識してたんだ。

目黒なあに?

椎名『エベナ』だよ。

目黒ああ、あれか。

椎名すごく楽しみにしてたんだ。SFでもなければ私小説でもない作品で、これを目黒に読ませたいって思ってた。ところが、何を書いているのかまったくわからないって、それでおしまい(笑)。

目黒おれにはわからない小説が結構あるんだよ。ここでは具体的な作家や作品名は控えるけど、わからないから書評も書けない。つまりわからないというのは批評ではなく、感想にすぎないからね。

椎名つまらないというのとは違うのか。

目黒いや、つまらないんだけど、それも感想にすぎないだろ。

椎名ちょっと待てよ。じゃあ、お前は『エベナ』がつまらなかったのか?

目黒褒めてくれた編集者がいたって、こないだ言ってたよね。

椎名いいやつがいるんだよ(笑)。

目黒じゃあ、それでいいんじゃないかなあ。

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