「源作じいさんの島」
制作=1975年/16ミリ/10分/モノクロ
出演=源作じいさん夫婦/ナレーター=椎名誠
ロケ地=新潟県・粟島
あらすじ
日本海の孤島で暮らす老夫婦の一日をドキュメンタリー風に撮影したもの。その撮影模様は『あやしい探検隊 北へ』に詳しい。
椎名誠 自作を語る
このころになるとぼくは8ミリでは飽き足らず、ついに16ミリのカメラを買いました。スイス製のボレックスで、京都大学の全共闘の学生から16万円で買いました。ゼンマイ仕掛けで動くカメラで超精密機械です。 もうこうなったら本格的な映画をつくるしかない、と思い、沢野ひとし、依田正晴、小安稔一たちを集めて、夏に行った粟島へ冬にもう一度行くことにしました。 夏場はにぎやかだった島も、冬はさびれて人通りもなく、その島でひっそりと暮らしている老夫婦の一日を追う、という話が必然的にできあがっていきました。 冬の日本海の荒波波濤はものすごく、その中で老いた夫婦が互いをいたわりあいながら野良仕事をしているという風景は、見ていてなかなか心地よかった。 この映画はトーキーとして完成し、その年の東京アマチュア映画祭で招待上映されました。 残念なのは、この映画を老夫婦に結局見せられなかったことです。この島には16ミリ映画の映写機がなくて、上映するためには東京から重たい映写機をかついで持っていかなくてはなりませんでした。今だったらビデオテープにダビングして、郵便で送ればすぐにでも見てもらえるけれど当時は無理でした。そうこうしているうちにお二人とも他界されてしまいました。かえすがえすも残念です。 (椎名誠 新潮文庫 1996年『自走式漂流記1944〜1996』より)