『あやしい探検隊 済州島乱入』

目黒次は『あやしい探検隊 済州島乱入』です。2013年8月に角川書店から書き下ろしで刊行と。これは素晴らしいね。もう大絶賛したい。これは雑魚釣り隊とほとんどメンバーがかぶっているから、内容的は「雑魚釣り隊外伝」といっていいけど、これまでの雑魚釣り隊ものではベスト1だよ。

椎名ホントかよ。

目黒前に北海道にいったやつがあったよね。

椎名『あやしい探検隊 北海道物乞い旅』か。

目黒そうそう。あれがつまらなかったんで、心配したんだけど、なぜ前作がつまらなかったのか著者がこの本の中できちんと反省している(笑)。

椎名バカじゃないんだよ、おれだって(笑)。

目黒失敗を分析しているのは素晴らしい(笑)。つまり移動が激しすぎたので、荷造りと移動に追われてエピソードが少なかったと。だから今度は移動を少なくして、3ケ所だけ。しかも泊まるところのグレードも変えて、いちばん最初は高いホテル、いちばん最後は庶民的な民宿と変化をつけた。これが成功している。しかも──。

椎名まだ、あるか。

目黒旅程そのものは2週間だったかな。でもそんな長期間をフルにつきあう隊員は少ないから5〜6人ずつ、4〜5日でどんどん交代していく。これもよかった。

椎名勤めているやつもいるからなあ。2週間もつきあうのは無理だよな。

目黒変化が出て、よかったよ。さらに、その隊員たちの手記が入っていること。これまでも椎名が遭遇しなかったことなんかは、記録係のメモを見て椎名が書いていたけど、隊員の手記のほうが遙かに臨場感があるよ。みんな、文章はうまいから読ませるし。この方式はいいね。

椎名海仁のニンニク日記はいいだろ(笑)。

目黒ニンニクがだめな人に韓国はきついだろうね。笑っちゃいけないんだけど、おかしくて(笑)。空気からしてすでにニンニクの匂いがあるんだね。

椎名どうして韓国に行ったのかね(笑)。

目黒あなたが誘ったんでしょ(笑)。そして最大のヒットはこれ。

椎名なに?

目黒コンちゃんの発案で、各自ヒトコトずつ、本人自身のアイデンティティのもっとも中核をなす韓国語を覚えてきて、それが現地で通じるようにするという課題を作ったこと。たとえば椎名と名嘉元がマスターしていった韓国語は以下の通り。

椎名「メッチュジュセヨ。パリパリジュセヨ」(ビールください、急いでください)
名嘉元「ナクシハグシボヨ」(わたしは釣りがしたいです)

椎名名嘉元のが面白いだろ。どこへいっても、それを言うんだよ。

目黒タクシー乗っても食堂に入ってもね(笑)。でも、いちばんのケッサクは、

宍戸「ヌッキハゲヘ、ジュセヨ!」(油を多めにしてください!)

いいなあ、これ。読み終えてからも思い出すたびに吹き出しちゃう。今日、ここに来る途中、歩いているときにまた思い出してニヤニヤしてたら、行き交う人にじろじろ見られちゃった(笑)。だからね、トクちゃんが向こうについてから、韓国のりにはまっちゃって、ずっとぱりぱり食べてただろ? ここはトクちゃんに「韓国のりをください」と韓国語で言わせるべきだった(笑)。

椎名あったことをそのまま書くんじゃなくて、創作しろというわけだ。

目黒たとえば太陽がね、「ぼくの部屋にネコを見に来ませんか」というのを韓国語にして覚えていくくだりが出てくるけど、これは実際にあった通りのことを書いたとは思うけど、椎名が全部作るべきだよね。こういうフレーズは。ありのままを書くのがエッセイじゃないと思うんだよ。あやしい探検隊の本だから、あえて初期の探検隊の話をすれば、陰気な子安はぺっと唾を吐かなかったし、にごり目タカハシの目は濁っていなかった。あれは全部椎名の創作だったよね。そういう手法がここにも必要だと思う。

椎名次の本がもうそろそろ出るよ。こないだゲラ、戻したから。

目黒大丈夫かなあ。

椎名今度は二十六人で、手記も入るよ。ただし、滞在したのは1カ所だな。

目黒「油を多めにしてください!」はないでしょ?

椎名それはないなあ(笑)。

目黒とにかく、この『済州島乱入』は傑作です。雑魚釣り隊シリーズを離れても、近年の椎名本のベスト1じゃないかなあ。

椎名おれ、この間、結構いい小説も書いていると思うけど(笑)。

目黒いや、これがこの10年のベストだよ。

 

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