「椎名誠のベスト10」〔著者自選〕
目黒それでは、椎名の選んだ10冊を発表してください。
椎名ええと、これだね。
『武装島田倉庫』新潮社1990年
『中国の鳥人』新潮社1993年
『みるなの木』早川書房1996年
『銀天公社の偽月』新潮社2006年
『ONCE UPON A TIME』本の雑誌社2006年
『すすれ! 麺の甲子園』新潮社2008年
『ひとつ目女』文藝春秋2008年
『新宿遊牧民』講談社2009年
『そらをみてますないてます』文藝春秋2011年
『雨の匂いのする夜に』朝日新聞出版2015年
順位はつけません。刊行順です。
目黒すごいね。おれが選んだ10冊と、1冊もだぶっていない。それと半分の5冊がSFだぜ。『武装島田倉庫』と『ひとつ目女』が連作長編で、『中国の鳥人』『みるなの木』『銀天公社の贋月』の3冊が作品集。
椎名『中国の鳥人』と『みるなの木』は、目黒が選んでくれた『超常小説ベストセレクション』に主な作品は入っているから、そちらでもいいんだけど。
目黒『銀天公社の偽月』って、どんな話だっけ?
椎名お前、読んだだろ?
目黒忘れた。
椎名これはね、ちょっと読者を選ぶSFかもしれない。「爪の咆哮」という短編があるんだけど、ゴジラの気持ちになってさ、ゴジラは何を考えているんだろうって。
目黒覚えてないなあ。それにしても10冊のうち半分がSFというのは、極端だよねえ。それに写真集も2冊入っている。『ONCE UPON A TIME』と、『雨の匂いのする夜に』。
椎名『ONCE UPON A TIME』は純粋に写真だけの本。これに比べて『雨の匂いのする夜に』は写真に文章を足した写文集。
目黒装丁がいいよね。
椎名お前は外側だけを言うなあ(笑)。
目黒でもさ、10冊のうち7冊がSFと写真集だってのは極端だ。椎名ってSFと写真の人なの?
椎名印象に残って愛着のある本をあげたらこうなっただけで、深い意味はないよ。
目黒残りの3冊は、エッセイ『すすれ! 麺の甲子園』と、小説『そらをみてますないてます』。ええと、『新宿遊牧民』はエッセイ?
椎名一応、帯には「実録 小川いっぱい小説」となってるな。
目黒なによその「小川いっぱい小説」って。
椎名大河小説ってあるだろ? 大河じゃないよ小川だよってことだよ。
目黒作品系譜的には、『哀愁の町に霧が降るのだ』から始まって『銀座のカラス』『本の雑誌血風録』と続いていく「友だち交遊録」の路線で、『新宿熱風どかどか団』の次に位置する作品だから、これまでの作品が小説ならこれも小説だろうけど、『哀愁の町に霧が降るのだ』がエッセイならばこれもエッセイということになる。だからこれも小説でいいか。ヒロシたちの初登場シーンは衝撃だったね。
椎名『すすれ! 麺の甲子園』は3年か4年も取材したから思いもあるんだ。日本全国をまわって1位を決めたんだからな。で、後日、1位になった店を訪れたんだよ。てっきり店内に「堂々1位」とかなんとか、飾ってあるかと思ったら、なんにもなし。
目黒表彰状を送ったの?
椎名いや、何も贈らないし、知らせもしていない。
目黒じゃあ、1位になったことも知らないんじゃないの?
椎名そうかあ、表彰状を渡せばよかったんだ。
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※ 2016年10月に行われた『本人に訊く〈壱〉よろしく懐旧篇』出版記念トークショーより。