『すばらしい黄金の暗闇世界』
目黒それでは、『すばらしい黄金の暗闇世界』です。WEBナショナルジオグラフィックに書いたものが11本、SFマガジンに書いたものが7本、書き下ろしが1本。で、日経ナショナルジオグラフィック社から、2016年6月に刊行。これは書店で見たとき、びっくりしたよ。いい装丁だねえ。
椎名どれ?
目黒すごい目立つんだよ。新刊コーナーの中で、この本が浮き上がってみえた。誰の本だと思って近づいたら、椎名の本だった。
椎名装丁は誰?
目黒呉さんだ。ええと、帯には「地球の森羅万象をめぐる奇鬼驚嘆痛快エッセイ集」とある。このコピーを考えたのは、あなた?
椎名いや、編集者だな。
目黒細かなことが幾つもあるんで、順番にやっていきますが、まず地下住居の話が出てくる。中国の「ヤオトン」ね。この「ヤオトン」が地域の名前なのか、民族の名前なのか、地下住居の名前なのか、それがわからない。この本のどこにも書いてないんだ。
椎名住居の形態だな。
目黒黄河の上流あたりは岩の多い地域なので、その岩をくりぬいて住居にしていると書いているね。夏は三十五度,冬は零下二十度になる地域らしいんだけど、地下住居は一定温度を保たれていると。地下に住むにはそういう理由があるんだね。
椎名長老は北側に座っているんだよ。どうしてか、わかるか?
目黒わからない。
椎名南を向いているわけだよ。
目黒ああ、陽が当たるのか。
椎名全部、理由があるんだね。
目黒あのね、一つ質問していい?
椎名いいよ。
目黒いまでも「ヤオトン」に住む人は四千万人もいるっていうんだよ。
椎名それがなんだ?
目黒四千万人だよ。すごくない? というのは、カッバドキアの地下都市は、地下八階、深さにして平均で六十五メートルで、一時は四万人が暮らしていたっていうんだ。カッパドキアで四万人だよ。それに比べて四千万人って、あまりの差だぜ。まあ、カッパドキアと中国のヤオトンでは、広さがどのくらい違うかはわからないんだけど。
椎名そう言われると自信がなくなってくる(笑)。
目黒資料を写し間違えた、なんてことはない? いや、疑っているわけではないんだけど(笑)。
椎名思い出した。オーストラリアの砂漠地帯を旅していたときに、やはり地下住居に遭遇したことがある。オパールの採掘場だったところに地下都市が出来ていた。そこにはなんと病院も学校もあったよ。
目黒その話、どうしてこの本に書かなかったの? 面白いじゃない。
椎名書いていない?
目黒書いてないよ。
椎名忘れてたんだな(笑)。
目黒奥アマゾンの毒蛇スクルクの話が出てくるんだけど、こいつ、ホントに迷惑なやつだよねえ。
椎名光に猛烈に反応するから、焚き火をしていると向かってくる。
目黒ところが熱いから暴れまわる。
椎名で、逃げ遅れた人に噛みつく。噛みつかれたら100%死ぬからね。これほど迷惑なやつはいないよ。
目黒あとね、これは苦言ではないんですが、椎名がむかしよく書いていたことがある。歌手は羨ましいと。同じ歌を何十年も歌っていると、歌いこんだって評価される。でも作家はそういうわけにはいかない。同じ小説を何度も書くわけにはいかないと。でもね、この本に、北極圏で人口五百人くらいの村には大きなスーパーが進出しているからみんながメタボになると書いているんだけど、この話、読んだのは3回目くらいだよ(笑)。でも苦言じゃないのは、忘れてるから、また面白く読んでしまうわけ。つまり椎名の繰り返しの場合は、世界の辺境にいって珍しいものを見たり体験したりということが多いから、他の人があまり書かないことだよね。だから許されるんじゃなかって気がする。
椎名わかったけど、何を言いたいわけ?
目黒もう歌手は羨ましいって書かないほうがいいよ。
椎名わかりました(笑)。
<<<『あやしい探検隊 台湾ニワトリ島乱入』 『ケレスの龍』>>>
書籍情報はこちら » すばらしい黄金の暗闇世界