『酔うために地球はぐるぐるまわってる』

目黒ええと、次は『酔うために地球はぐるぐるまわってる』です。これは2014年5月に講談社から刊行された本ですが、寄せ集めですね。全体が4章にわかれていて、1章「世界のあちこちでこんなサケを飲んできた」は椎名が編集長になって発刊した雑誌(創刊号は『飲んだビールが5万本!』)に書いた世界のいろいろ変わった酒の探訪記をベースにして追加原稿をたしたもの。2章の「イングルモルトウイスキーの旅」は、週刊現代のグラビアでやった探訪記。3章「ビールがいつも旅人を助けてくれた」は、単行本『私広告』からビールエッセイを転載。4章「さあ今日もグラス囲んで黄金週間」は、「月刊たる」に書いた酒のウンチク話。こういう構成なんですが、酒という統一テーマはあるんだけど、寄せ集めエッセイ集の感は免れない。

椎名まるまる一冊、サケだけの本っていいと思うけどなあ。

目黒まずね、冒頭近くに出てくるんですが、椎名がサントリービールのCMに出たとき、司法修習生として長崎にいた木村さんから電話がきて、「自分が盗んだビールのコマーシャルに出ているのはおそらくお前がはじめてだろう」と笑いながら言った、というエピソードを書いている。この「自分が盗んだビール」の意味は、その少し前に、若いころに近くの酒屋の倉庫からビールを盗んだことがあるという挿話を書いているんで、その小岩の共同生活を描いた『哀愁の町に霧が降るのだ』を読んでなくてもわかるようになっている。椎名の読者ならみんなが知っている有名な話だよね。

椎名うん。それがどうかしたのか?

目黒あのね、椎名がサントリービールのCMに出たのは1983年か1984年。正確には調べがつかなかったんだけど、そのあたりなんだ。ということは、椎名が四十歳のときだよね。木村さんは同い年だから、彼も四十歳。その年で司法修習生ってことはあり得ないでしょ。ちなみに木村さんが弁護士になったのは1970年、独立して事務所を開いたのは1983年です。

椎名ふーん。

目黒ここから先は推測なんだけど、椎名がサントリービールのCMに出たときに、木村さんから電話がきたのは事実なんだと思う。しかも旅行先の九州から。で、木村さんが若いとき、司法修習生として九州にいたことも事実だから、このエッセイを書くときに記憶が混乱しちゃったと。そういうことだと思う。

椎名そこまでわかっているなら、もういいだろ(笑)。

目黒いや、椎名がいかにも書きそうな間違いだから、それはいいんだけど、こういう人と付き合うためには周囲の人がフォローしなくちゃだめなんですよ。椎名さん、これは間違いですよって指摘しなければならない。椎名を信用しちゃだめ(笑)。どうしてこういう間違いを編集者や校正担当者が見落とすんだろう。不思議で仕方がない。こういうことを言っていると自分に跳ね返ってくるから、あまり言わないほうがいいけど。

椎名そうだよ。お前が発行人だった時代の本の雑誌社の出版物に間違いがまったくなかったか? あっただろ。あまり人を責めるもんじゃない。

目黒実はそうなんだ。『私広告』から転載された部分がこの本に収録されているけど、そこにすごく嘘っぽい文章がある。「クリスティの未読本を尻のポケットに入れて」という文章なんだけど、椎名は絶対に尻のポケットに本なんて入れないし、だいいちクリスティを読んでいない(笑)。これはいかにもイメージだけで書いた文章だ。

椎名『私広告』はお前が発行人のときの本だろ。

目黒これは新聞広告に椎名が書いたエッセイで、だからイメージが先行している。それをそのまま単行本に収録しただけなんだけどね。

椎名文章を直すべきだったな(笑)。

目黒あのね、書いたのはあなただよ(笑)。ええと、もう一つ、言っていい?

椎名なに?

目黒もういいかげんにこれはやめてほしい。

椎名なに?

目黒この113ページの写真。

椎名どれ?

目黒あのフィオナさんの写真ですよ。スコットランド探訪記に出てくるフィオナさんは女性の音楽家で、海辺でバイオリンを弾いているとアザラシが集まってきて、演奏を聞いているっていうんだけど、その写真をいくら見てもアザラシが写っていない(笑)。

椎名いるだろアザラシ(笑)。

目黒この写真が椎名の本に載るのはもう4回目か5回目だぜ。もうやめようよ(笑)。文章だけでいいじゃない。

椎名この写真を載せないと、バイオリン演奏をアザラシが聞いているなんて信じてもらえない。

目黒写真を見たら余計に信じてもらえないよ(笑)。

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