『殺したい蕎麦屋』

目黒次は『殺したい蕎麦屋』。これは2007年から2010年あたりにかけて『yom yom』に連載した写真つきのエッセイを中心に、ほぼ同じころにいろんな雑誌に書いたものを集めたエッセイ集で、2013年12月に新潮社から本になっています。ようするに寄せ集めの本ですね。

椎名だめか?

目黒寄せ集め自体は悪くないよ。でもね、あまりに内容がばらばらすぎるのと、同じ話が何度か出てくる。新聞の単発コラムに、以前書いたネタをつい書いてしまうのはまだいいよ。以前のエッセイを読んでない読者もいるんだから。でも、その同じネタ・コラムをなにもわざわざ集めて載せることはないよね。意味がわからない(笑)。同じネタのエッセイが違う本に出てくるからまだ仕方がないけど、同じ本に出てくるんだぜ。しかもわざわざ集めているんだぜ。それはたった数本にしかすぎないけど、その数本の印象は強いんだよ。そういうものは、本にまとめるときにカットするのが筋でしょ。

椎名そうか。

目黒寄せ集めの本って、そういう手間が結構かかるから、本来は逆に面倒くさいんだ。

椎名手抜きの本か。

目黒数本カットしてもそんなにページはかわらないから、文庫にするときは同じネタのエッセイをカットしたほうがいいよ。

椎名わかった。

目黒内容をみていきますが、冒頭の犬の話はいい。特に,

だから犬の話は結局は「別れ」の話だ

というフレーズは読み終えても耳に残り続ける。犬の生きている時間は人間と違うから人よりも先に死んでいく。だから犬の話をするということは、その別れの話をすることだっていうのは、文学的だよね。それに、何度も見たけど、ワンサの写真が可愛い。

椎名明日殺されるって日に連れてきたからな。

目黒だから、まだ怯えている。上目遣いでカメラを見ているのが可愛い。おれの家にも真っ黒な犬がいて、彼も踏み切り際に捨てられていた犬だから、ずっと怯えていたんだ。こういう黒い犬を見ると我が家の愛犬を思い出すよ。あとは、これも以前に見たけど、アルゼンチンで飼い主が出てくるのをレストランの前でじっと待っている犬の写真。可愛いなあ。こういう写真は何度見てもいいね。そうだ、出してよ犬の写真集。おれ、買うよ。

椎名そうだなあ。

目黒犬が話したら面白いっていうくだりがあって、「今日は寒いですねえ」とか「いい天気ですねえ」ぐらいの会話でいいと椎名が書いているけど、ホントにそうだよね。翻訳小説であったんだよ。犬が喋る小説。でもホントにたいしたことは喋らないの。「うんちうんちうんち」と言って駆け回ったり、「ごはんごはんごはん」と言って飛び回ったりするだけ。

椎名リアリティがあるなあ。

目黒だよね。犬と哲学的な会話をするより、そっちのほうがリアリティがある。あとは、いつか自分の年齢ぐらいの金額がもらえたらなあと思った記憶があると、若いころの給料について書いているんだけど、これ、おかしいよ。

椎名何が?

目黒二十一歳のときに初任給を貰ったときそう思ったというんだけど、その初任給は一万円だったというんだ。もう貰ってるじゃん。

椎名貰ってないよ。

目黒だって二十一歳のときに一万円だよ。

椎名年齢の金額には足りないだろ。二万千円もらわないと「年齢の金額」にはならない。

目黒あ、そういう計算か。おれは下一ケタの金額だと思ってた。おれ、二十五歳のときに五万円欲しかったんだよ。で、二十六歳のときは六万円。二十七歳のときは七万円。ところがいつも一万円足りないんだ。二十五歳のときは四万だったし、二十六歳のときは五万円だった。だから椎名も二十一歳のときに一万欲しいのだと勘違いしてた。でもさ、椎名の計算だと毎年千円しかベースアップしないぜ。ま、いいか。あとね、これはもうやめたほうがいいよ。

椎名なに?

目黒駄洒落はやめなさいって以前も言ったよね。「締め切りまみれの人生になっている。だからシメキリのシメと聞くとシメサバもシメナワもシメゴロシも嫌だ」っていうの。

椎名面白くないか。

目黒ちょっと読むのが辛い。あ、そうか。褒めるのを忘れてた。

椎名おお、褒めてくれよ。

目黒このタイトルはいい。出版広告を見て、買いにいこうかと思ったもの。犬の写真と書名は素晴らしい。

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